ヒトの化学物質曝露を評価する3 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです


化学物質過敏症 runのブログ-2
図2 ある女児の曝露媒体試料中および血中の鉛同位体比分布
エラーバーは測定値のばらつきを示します。△:ハウスダスト、 ● : 血液、◇ : 学校土壌、* : 飲食物


ハウスダスト中の鉛の起源について

さらに私たちは、様々な家から掃除機塵を採取し、ハウスダスト中の鉛の起源について調査を行いました。

収集した試料のうち、鉛濃度が高かった家庭の掃除機塵中の0.25-2 mmの大きめの粒子を対象に、蛍光X線分析(XRF)を用いて鉛含有物の探索を行ったところ、複数の試料から、図3に示すような鉛を高濃度に含む薄片や薄膜が見つかりました。

その粒子の元素組成や色や形状などから、鉛含有物は塗料片や塩化ビニル膜などであると推定されました。

これらの由来をさらに特定し、削減することが小児の鉛曝露の低減対策の1つとして考えられます。

なお、小児の鉛曝露源解析およびハウスダスト中鉛の起源に関する研究は、東京大学と共同で行いました。

化学物質過敏症 runのブログ-3

図3 掃除機塵中より選択した粒子を並べた写真(左)と蛍光X線マッピング画像(Pb Lα、右)
黄色く囲った物体から鉛が検出されました。

Pb Lαとは、X線の照射を受けた鉛原子から発生する、鉛固有の蛍光X線のひとつです。

右図の赤色は蛍光X線の強度が高いことを示します。

さいごに

今回紹介した研究では、鉛の同位体比の高精度分析により、小児の鉛曝露にとってハウスダストが重要な曝露源となるケースがあることを示すことができました。

最近では、プラスチックの可塑剤(柔らかくするための添加剤)として使用されているフタル酸エステル類や、カーテンや電化製品などに使われる臭素系やリン酸エステル系の難燃剤(ものを燃えにくくするための添加剤)などもハウスダスト中に比較的高濃度に含まれているという報告も相次いでおり、ハウスダストの化学物質曝露源としての重要性への着目度は増していると言えます。

幼児や小児は脳や体の器官が発達する重要な時期であるとともに、室内の床付近で過ごす時間が長いことや、手や物を口に運ぶという行動的性質を持っており、ハウスダストを介した化学物質の曝露を一層考慮する必要があると考えられます。

現在私は、鉛などの金属類のみならず、内分泌かく乱物質等の有害な有機化合物の曝露についても研究の対象を広げています。

主に、ヒトの尿の有機化合物や代謝物の多成分分析法の開発に関する検討を行っています。

今後も、ヒトの化学物質曝露評価、さらにはリスクの低減という視点で環境分析技術の高度化とその応用について研究していきたいと考えています。

(たかぎ まい、環境計測研究センター)