・有機塩素
DDT は米国ではもはや使われていないが、世界の一部では農業や病原媒介生物の駆除に激しく使われている。
野生生物に対する特性と生物濃縮し環境中で長年残留する性質のために、DDT は米国やほかの諸国で禁止された。
DDT も神経細胞膜の安定性に干渉することによって毒作用を発揮し、被ばくした動物で神経系の過剰刺激を起こす。
動物での試験
生まれたばかりのマウスに生後 3 または 10日、 19日日に0.5 mg DDT/kg を投与し、生後4か月に自発活動レベルと大脳皮質中のムスカリン作動性コリン受容体を調べた。111
生後10 日に DDT に被ばくしたマウスは活動レベルの有意な増加と受容体の減少を示した。
生後3 日と19 日に被ばくしたマウスは有意な変化を示さなかった。
これらの結果は、被ばくが脳構造と機能に一生続く影響を起こす神経毒化学物質に影響を受けやすい短期であるが重要な窓があることを強調している。
人間の研究
農薬に被ばくした子供の神経学的評価報告はほとんどなく、被ばくの急性影響に普通限られている。
しかし、大きな農業共同体で農薬混合物にたびたび被ばくしたメキシコの子供に関する最近の研究は、子供が発達する間の農薬被ばくによって多くの様々な脳機能が障害を受けることを示している。112
研究者は、同じ遺伝的および社会的・文化的背景を持つ 4-5 才の子供の 2 群を調べた。
しかし、1つのグループは農業で農薬が規則的に使われる共同体に住んでいたが、もう一つのグループは化学物質を使わない農業をしている共同体の出身であった。
種々の有機塩素系農薬が、農薬に被ばくした共同体では個人の臍帯血と母乳中に検出されたが、ほかの種類の農薬被ばくはありそうもなかった。
キャッチボールや一本足で出来るだけ長く立つこと、その場所で飛び上がること、15 cm 離れて瓶のふたの中に干しぶどうを落とすようにを頼んだ時、被ばくした共同体の子供は持久力と協同運動の重大な低下を示した。農薬に被ばくした子供の記憶も障害されていた。
試験をはじめる前に褒美(赤い風船)として何が約束されたかを思い出すことが難しかった。
また、被ばくした子供は見覚えのある人や対象を描く能力に障害を受けていた。
人物を描くことを頼まれたとき、被ばくを受けない子供は絵に平均で 4.4 の体の部位を描いたのに対し、被ばくを受けた子供は、平均で絵に 1.6 の体の部分を描き、絵はゆがんでいた。
被ばくした子供が描いた家や樹木も一層ゆがんでおり、解釈するのが困難であった。
被ばくした子供は、遊びで創造性が少なく見えた。
ピレスロイド自然に存在するピレトリンあるいは合成ピレスロイドも、神経細胞の電気活動に干渉することによって、毒作用を発揮する殺虫剤である。Ⅰ型とⅡ型に分けられることがある。
Ⅰ型は神経細胞の繰り返し発火を起こすが、Ⅱ型は細胞の脱分極をブロックすることにより不興奮性を起こす。
動物実験
バイオアレスリン(Ⅰ型)あるいはデルタメトリン(Ⅱ型)を生後10日に少量投与されたマウスも、成熟して脳皮質中のムスカリン性コリン作動性受容体レベルが低く、多動であることを示した。113
薬量反応曲線をさらに明らかにするため、研究者は生後10日に0.21 と 0.42, 0.70, 42 mg/kg のバイオアレスリン量を投与した。
大人になったときのマウスの多動性は 0.7 mg/kg まで量の増加につれて増加したが、その後、42 mg/kgの量で鋭く低下した。
高被ばく量の試験で低被ばくレベルでのみ見られる悪影響をつき止めることに失敗したこの観察は、農薬試験にとって特に重要である。
農薬規制試験目的のための投与量選択に関する現在の方法は、この影響を見落としていると思われ、再検査すべきである。
別な 2 種類のピレスロイド、フェンバレラートとサイパーメトリンの研究では、胎児期と授乳期被曝後に、ラットの子で神経伝達物質レベルへの影響を調べた。114
神経伝達物質酵素(モノアミンオキシダーゼとアセチルコリンエステラーゼ)のレベルの変化に気づいた。
脳中のドーパミン受容体レベルはそれぞれの化学物質被ばく後に減少し、ムスカリン性コリン作動性受容体レベルはシペルメトリン被曝後のみ顕著に減少した。