・農薬
? 一般に使われている有機リン系の化学物質に属する農薬の動物実験は、発達の決定的な日に、少量の 1 回投与が脳の神経伝達物質受容体レベルで永続的な変化と多動を起こすことがあることを示している。
? 最も一般的に使われている有機リン系農薬の1 つであるクロルピリホス(ダーズバン)は、発達中の脳で DNA 合成を減少させ、細胞数の欠乏を招く。
? 別の一般的に使われている種類の農薬である一部のピレスロイドも、発達の重要な単一の日に、少量に曝された動物で永続的な多動を起こす。
? メキシコの農業社会で様々な農薬に被ばくした子供は、スタミナ低下や運動の協調・記憶・絵で良く知っているものを描く能力の障害を示している。
多くの農薬は神経毒であるために昆虫を殺す。
例えば、有機リンとカーバメートは神経伝達物質アセチルコリンを分解する酵素、アセチルコリンエステラーゼを阻害する。
ピレスロイドやピレトリン・有機塩素など他の農薬グループは神経細胞機能に干渉することによって有毒な作用を発揮する。農薬被ばく経路は第7 章で考察する。
有機リン
有機リンは、家庭や芝生・庭・商業的食品供給で、害虫駆除のために広く使われている。
動物実験
新生児マウスの研究は、生後10 日に有機リン剤の1 回投与(1.5 mg ジイソプロピルフルオロフォスフェート[DFP]/kg体重)が生後4か月で大脳皮質のムスカリン作動性コリン受容体*の永続的減少と多動性を生じた 。
投 10 7与されなかった対照と比較した場合、被ばくした動物は歩行(水平運動)と全活動(全ての型の運動)の持続的増加を示した。
最も多く使われている有機リンの一つクロルピリホス(ダーズバン)も、神経化学的・行動学的影響を妊娠中に被ばくしたラットに起こす。
クロルピリホスを投与された妊娠ラット(6.25, 12.5, or 25 mg/kg/日、注射、妊娠12-19 日)の子は脳内にムスカリン作動性コリン受容体が少なく、立ち直り反射と断崖回避試験*が顕著に変化した108。母ラットが妊娠6 日から生後11 日まで胃管によって5 mgクロルピリホス/kg/日を投与された場合、子供は聴覚性驚愕応答*が減少し、脳重量が増加した109(比較のために、それ以下では人間で悪影響が起こるとは思われない量であるクロルピリホスの現在の基準量 RfD は 3 マイクログラム/kg/日である)。
* ムスカリン作動性コリン受容体:神経伝
達物質であるアセチルコリンの受容体は、電気生理学的・薬理学的性質から、ニコチン作動性とムスカリン作動性に分けられる。
* 断崖回避試験:透明ガラス板の下に断崖を設置し、断崖端に沿って設置したガラス板上のプラットフォームの上で動物が反対側に移動するか否かをもって評価する検査方法
*訳注:聴覚性驚愕応答: 突発的な音刺激に対する耳介の不随意的な反射運動。
音刺激の性質を調節することにより、聴覚の定量的評価が可能という。
別の有機リンであるダイアジノンを妊娠の間、0, 0.18, or 9.0 mg/kg/日をマウスに投与し、子供の発達を評価した110。最も多い量を投与された母ネズミの子は被ばくが少なかった群の子供より成長が遅かった。
最も少ない量を投与されたマウスの子供は正常に成長したが、行動検査は接触性置き直し反射*の発達と性的成熟が遅れた。どちらかの量に被ばくした母の大人になった子供は耐久力と協同運動の障害を示した。ダイアジノンの RfD は EPA が見直し中である。
*接触性置き直し反応:下に垂らした前肢端をテーブル面などに接触させたとき、前肢を伸展させて置き直す反応