・神経毒性のメカニズム
早期の神経発達に対するダイオキシンとPCB の作用メカニズムは不完全に理解されている。
ダイオキシンと一部のPCB は同じ1 つの作用メカニズムを分け合っているが他では異なる。
しかし、化学性質が似ているので生物組織中で共存する傾向があり、人間の疫学研究でそれらの毒物影響の間を区別することを困難にしている。
ダイオキシンとダイオキシンに似ている PCB(いわゆるコプラナー、あるいは非オルト PCB)は、Ah 受容体に結合することによる共通の作用メカニズムを持っている。
この複合体はさらに処理され、細胞核の中に行き、そこで DNA と結合し種々の成長因子やホルモン・ホルモン受容体の生産と代謝に影響する。
しかし、Ah 受容体に容易に結合しない多くのコプラナー以外の、あるいはオルト PCB も神経発達毒性に相当寄与する生物学的活性を持っている。少なくともこの毒性の一部は甲状腺ホルモン機能を妨害することによるだろう。
PCB は種々の方法で甲状腺ホルモンに干渉する。動物実験で、一部の PCB は循環中の単体タンパク質トランスサイレチンからチロキシンに取って代わる。
多くの動物で、トランスサイレチンに付着したチロキシンは、それによって胎児の脳に到達できる甲状腺ホルモンの形である。
この結合に干渉するあらゆる化学物質は正常な脳の発達を変化させる可能性がある。
しかし、人間で別の蛋白、サイロキシン結合蛋白はチロキシンの主な運搬タンパク質であり、その結合はPCB によって影響を受けにくい。
また、ダイオキシンと PCB は、チロキシンの代謝と排泄を促進する酵素を誘導することによって、チロキシンの回転を増加させることにより甲状腺ホルモン機能に干渉する102。
また、PCB は甲状腺ホルモンが媒介する遺伝子転写に干渉する 103。
しかし、出生前 PCB 被ばくがサイロキシンレベルを低下させるが、用いた投与量で脳の甲状腺依存性蛋白合成は影響を受けないことを最近の報告が示している104。
この発見は、出生前の 被ばくの PCB神経発達影響は甲状腺ホルモンレベルの減少にのみよるものではないことを意味している。
また、一部の PCB は正常な脳の神経伝達物質レベルを変化させるが、変化の性質は PCB構造に依存する105。
例えば、オルト は PCBドーパミン合成を減少させるが、オルト以外の PCB はラットで子宮内と授乳による被ばく後ドーパミンレベルを増加させる106。
.この影響は、子宮内で PCB に被ばくした人間で記載されている神経発達の遅れに関係するだろう。
結論
ダイオキシンと PCB は、周囲環境で被ばくするレベルで、脳の発達と機能に悪影響を及ぼす。
PCB に対する出生前被ばくの影響は永続的であると思われる。精神運動の発達の遅れ・注意欠陥・遊び行動の変化・IQ 低下を含む認識障害は、大規模な人間の集団で述べられている。
これらの化学物質が神経毒性を及ぼすメカニズムは十分理解されていないが、おそらく神経伝達物質レベルと甲状腺ホルモンの変化を含むであろう。