・EMF ばく露制限に関するガイドライン
職業的ばく露と公衆ばく露に対して別々の指針が与えられる。
本ガイドラインにおける職業的ばく露は、正規の、または割り当てられた業務活動遂行の結果として、一般的には既知の条件下で、職場において1 Hzから10 MHz の時間変化する電界および磁界へばく露される成人に適用される。
対照的に、公衆という用語は、全ての年齢の、様々な健康状態の各個人に適用される。
このような個人の集団では個々の感受性の多様性は大きくなると考えられる。
多くの場合、公衆の人たちは、自分のEMF へのばく露に気づいていない。職業的にばく露される作業者に対するものより厳しいばく露制限が公衆に対して採用されるのは、このような考慮が根拠となっている。
科学における不確かさへの対処
全ての科学的データとその解釈はある程度の不確かさから免れ得ない。
不確かさの例には、研究方法の違い、個人間、動物種間、系統間の差異がある。
知識におけるそのような不確かさは低減係数を用いることによって補正される。
しかしながら、不確かさを生む原因の全てに関する情報が不十分なため、全ての周波数範囲と全ての変調パターンにわたって低減係数を設定するための確固たる根拠は与えられない。
したがって、研究データベースの解釈や低減係数の決定において、どの程度までの用心深さが適用されるかは極めて専門的判断の問題である。
基本制限と参考レベル
確立された健康影響と直接的に関連付けられる物理量(1つまたは複数)に基づくばく露の制限値を基本制限と呼ぶ。
本ガイドラインにおいてEMFばく露の基本制限の規定に用いる物理量は身体内電界強度 Ei で
ある。
これこそが神経細胞やその他の電気的感受性細胞に作用する電界であるからである。
身体内電界強度は評価が困難である。
そこで、実用的なばく露評価のため、ばく露の参考レベルが与えられる。
大半の参考レベルは測定および/または計算を用いて関連する基本制限から導き出されるが、いくつかの参考レベルはEMFばく露の知覚(電界)および間接的で有害な影響に対処するものである。
導き出された物理量は、電界強度(E)、磁界強度(H)、磁束密度(B)、および四肢電流(I L)である。
間接的影響の物理量は接触電流(I C)である。どのようなばく露状況においても、いずれかの物理量の測定値または計算値を適切な参考レベルと比較することが可能である。
参考レベルを満たせば、関連する基本制限を満たすことは保証される。もし測定値または計算値が参考レベルを超過するとしても、そのことが必ずしも基本制限を超過することにはならない。
しかしながら、参考レベルを超過する時には必ず、関連する基本制限を満たすか否かを検証し、追加的防護策が必要か否かを決定することが必要である。
基本制限
本文書刊行の主な目的は、健康への有害な影響を防護するためのEMFばく露制限のためのガイドラインを制定することである。
上述のように、リスクは神経系の一過性の反応から生じる。
これには末梢神経系(PNS)および中枢神経系(CNS)の刺激、網膜閃光現象の誘発、脳機能のある側面への影響の可能性も含まれる。
上述の考察から、網膜閃光現象の誘発を回避するために、10 Hz-25Hzの周波数範囲において、職業的ばく露は、頭部のCNS組織(すなわち、脳と網膜)に50 mVm-1 以下の電界強度を誘導するような電界および磁界に制限される。
これらの制限値により、脳機能に対して起きる可能性のある一過性の影響は全て防護するはずである。
これらの影響は健康への有害な影響とは見なされていない。
しかしながら、一部の職業的環境において作業を妨害するかも知れないので回避するのがよいとICNIRPは認識するが、追加的な低減係数は適用されない。
これより高い周波数および低い周波数では、網膜閃光閾値は急激に上昇し、末梢および中枢の有髄神経刺激の閾値と400 Hzで交差する。
400 Hzより高い周波数では、末梢神経刺激の制限値が人体の全ての部位に適用される。
管理された環境でのばく露は、作業者はそのようなばく露により起きる可能性のある一過性の影響について知識を与えられているので、末梢および中枢の有髄神経刺激を回避するために、頭部および体部に800 mVm-1 以下の電界強度を誘導するような電界および磁界に制限される。
これは、上述の不確かさを考慮するために、刺激閾値4 V m-1に対して低減係数 5 を適用したものである。
3 kHz以上ではこの制限値は上昇する。
公衆については、低減係数 5 を適用し、頭部のCNS組織に対し、10 Hz-25Hzの周波数範囲で10 mV m-1 の基本制限が与えられる。
これより高い周波数および低い周波数で基本制限は上昇する。
1000 Hzにおいて、末梢および中枢の有髄神経刺激を防護する基本制限値と交差する。
ここで低減係数 10 を適用し、400 mV m-1の基本制限値が得られる。この制限値は人体の全ての部位の組織に適用される。
基本制限を表2および図1に示す。