・慢性影響:低周波電磁界の慢性影響に関する文献は、個々の科学者および専門家委員会によって詳細に評価されてきた。
WHO のがん研究機関であるIARC(国際がん研究機関)は、2002 年に低周波の磁界の評価を行い、カテゴリー2 B (「ヒトに対する発がん性があるかもしれない」と説明されるカテゴリー)に分類した。
この分類の根拠は小児白血病に関する疫学研究の結果である。
ICNIRPの見解は、低周波の磁界への長期ばく露が小児白血病のリスク上昇と因果的に関連することについての既存の科学的証拠は、ばく露ガイドラインの根拠とするには非常に弱い、ということである。とりわけ、この関係が因果的でなかった場合、ばく露を低減しても健康への利益は何も生まれない。
ドシメトリ:歴史的に磁界モデルでは、身体は均一で等方性の導電率を持つと仮定し、様々な器官や部位における誘導電流の推定に単純な円形導体ループモデルを採用してきた。
時間変化する電界および磁界による誘導電界は、単純な均一楕円体モデルを用いて計算された。
近年、解剖学的および電気学的に精密な不均一モデル(Xi とStuchly 1994; Dimbylow 2005, 2006;Bahr 他 2007)に基づく、より実際に近い計算の結果、電界および磁界へのばく露によって身体内に生じる電界について、はるかに正しい知識が得られるようになった。
4 mm以下のボクセルサイズを用いた高解像度の誘導電界計算から、本ガイドラインの目的にとって最も有用なドシメトリの結果が得られた(Dimbylow 2005;Bahr 他 2007; Hirata 他 2009; Nagaoka 他 2004)。
外部電磁界が均一で、向きが体軸に平行(電界の場合)または垂直(磁界の場合)の時、身体内に誘導される電界は最大になる。
計算によれば、50 Hz磁界により脳組織に誘導される電界の局所的ピーク値の最大値は、外部磁界1 mT当たりおよそ23-33 mV m-1で、磁界の向きと身体モデルに依存する。
現時点で利用可能な末梢神経組織に対する変換係数はない。
したがって、末梢神経末端がある皮膚が、ワーストケースの標的組織として選ばれた。
50 Hz磁界により皮膚に誘導される電界は、外部磁界1 mT当たりおよそ20-60 mV m-1である。
50 Hz電界により脳組織に誘導される電界の局所的ピーク値の最大値は、外部電界1 kV m-1当たりおよそ1.7-2.6 mV m-1であり、皮膚においては、外部電界1 kVm-1当たりおよそ12-33 mV m-1である。
参考レベルの導出における身体パラメータの影響や現在利用可能なドシメトリにおける不確かさを考慮して、ICNIRPは、基本制限から参考レベルを導出する際に、安全側に見積もる方法を用いている。