・今回推奨される低周波ガイドラインの論拠
ICNIRP は、この指針において、急性的および慢性的な健康影響に対処し、ドシメトリの最近の進展を考慮に入れる。
急性影響:低周波EMF へのばく露が神経系に与える急性影響は十分確立されたものが多数ある。
それは、神経および筋組織の直接刺激、ならびに網膜閃光現象の誘発である。
また、間接的な科学的証拠があるものは、視覚処理と運動との協調のような脳機能が誘導電界により一過性の影響を受ける可能性である。
これら全ての影響には閾値が存在し、閾値以下では影響は起きないため、体内誘導電界に関する適切な基本制限を満たすことによって影響は回避可能である。
静磁界のばく露制限に関するガイドライン(ICNIRP2009)に関連して出された推奨にしたがって、職業的環境では、適切な助言と訓練が行われた場合、作業者が網膜閃光現象およびある種の脳機能に起きる可能性のある微少な変化のような一過性の影響を、承知の上で随意的に体験することは理にかなったことであるとICNIRPは考える。
なぜなら、そのような影響が長期的または病理的な健康影響を結果的に生じるとは思われないからである。
このような職業的環境での身体のあらゆる部分へのばく露は、末梢および中枢神経系の有髄神経刺激を回避するために制限される。
ICNIRPは、末梢神経の知覚閾値と痛み閾値の差は比較的小さいことに留意している(上述参照)。両神経系の神経線維とも、約1-3 kHz以上では、髄鞘を有する結果として膜時定数が非常に短くなることが原因で、また約10 Hz以下ではゆっくりとした脱分極刺激への順応が原因で、それぞれ閾値が上昇する。
網膜閃光現象を回避すれば、脳機能に起きる可能性のある全ての影響が防護されることになる。
網膜閃光閾値は20 Hz付近において最小で、それより高い周波数および低い周波数では急激に上昇する。
これが末梢および中枢神経刺激閾値と交差する点においては、末梢神経刺激に対する制限値が適用される。訓練を受けておらず、自分のばく露状況に気づかず、ばく露状況を制御する手段を持たない可能性がある作業者を考慮して、一過性ではあるが作業を妨害する潜在的可能性がある影響を避けるために、基本制限は網膜閃光閾値に設定される。
公衆については、網膜閃光閾値に低減係数 5 が適用される。
低周波の電界へのばく露は、表面電荷作用による、十分に明らかにされている生物学的反応を引き起こす。
そのようなばく露によって身体表面に誘導される表面電荷による痛み作用の防止は、参考レベルを用いて対処する。