低周波ばく露とアルツハイマー病との関連を調べた
研究は一貫性がない。
総括すると、低周波ばく露とアルツハイマー病およびALS との関連の証拠は決定的ではない。
心臓血管系疾患:短期的および長期的ばく露の実験的研究によれば、電気的ショックは明白な健康ハザードであるが、それ以外の低周波の電界および磁界に関連する心臓血管系への有害な影響が、一般環境または職場で日常的に遭遇するばく露レベルで引き起こされる可能性はないことが示唆されている(WHO 2007a)。
文献では心臓血管系における様々な変化が報告されているが、それらの影響の大半は小さなものであり、一つの研究内および複数の研究間において結果に一貫性がなかった(McNamee 他 2009)。
心臓血管系疾患の罹患率および死亡率の研究の大半は、ばく露との関連を示していない(Kheifets 他 2007)。
ばく露と心臓の自律制御の変化との特異的な関連が存在するかどうか
は推論に過ぎない。
総括すると、これまでの証拠は、低周波ばく露と心臓管系疾患との関連を示唆していない。
生殖および発達:全般的にみて、疫学研究はヒトの生殖への有害な影響と母親または父親の低周波ばく露との関連を示していない。
母親の磁界ばく露に関連した流産のリスク上昇について限定的な証拠がいくつかあるものの、その報告された関連は他の研究では見られなかったことから、結局、そのような関連についての証拠は乏しい。
いくつかの哺乳類の種において、150 kV m-1 までの低周波の電界へのばく露の影響評価が行われており、その中には大きな実験標本サイズを用いた数世代にわたるばく露の研究もあるが、結果は発達への有害な影響はないことを一貫して示している(ICNIRP 2003a;WHO 2007a)。
哺乳類の低周波の磁界へのばく露は、20 mT までを用いた場合、大きな外形的奇形や内臓または骨格の奇形を生じなかった(Juutilainen 2003, 2005; WHO 2007a)。
総括すると、低周波の電界および磁界と発達および生殖への影響との関連の証拠は非常に弱い。
がん:1980 年代から1990 年代に特に行われたかなりの数の疫学報告は、1998 年のばく露ガイドラインの制限値を数桁下回る大きさの50-60 Hz 磁界への長期的ばく露ががんと関連するかも知れないことを示唆した。
初期の研究は、磁界と小児がんとの関連に着目していたが、その後の研究は成人のがんも調査した。
全体として、当初に観察された、50-60 Hz 磁界と種々のがんとの関連は、その再現性を確かめるためにデザインされた研究において確認されなかった。
しかしながら、小児白血病に関しては状況が異なる。
最初の研究に続いて行われた研究は、50-60 Hz の居住環境磁界の高い方のばく露区分と小児白血病リスクに弱い関連があるかも知れないことを示唆したが、それが因果関係か否かは不明確であり、その結果は選択バイアス、ある程度の交絡および偶然の組み合わせで説明される可能性がある(WHO 2007a)。
2つのプール分析(Ahlbom 他 2000; Greenland 他 2000)は、0.3-0.4 μTを超える平均ばく露について過剰リスクがあるかも知れないことを示唆したが、一方、その分析の著者らは、彼らの結果が磁界と小児白血病との因果関係を示すとは解釈できないと強く注意した。
同時に言えることは、生物物理学的メカニズムは何ら同定されておらず、また、動物および細胞研究の実験結果は、50-60 Hz 磁界ばく露が小児白血病の原因であるとの考えを支持していない。
注意すべきは、最も一般的な形態の小児白血病である、急性リンパ芽球性白血病の適切な動物モデルが現在はないことである。
ほとんどの研究は齧歯類モデルで50-60 Hz 磁界の白血病またはリンパ腫への影響はないことを報告している(ICNIRP 2003a; WHO 2007a)。
齧歯類での大規模長期研究が数件あるが、造血系のがん、乳がん、脳腫瘍および皮膚がんを含むあらゆる種類のがんにおいて一貫した増加を示していない。
ラットの化学物質誘発がんへの50-60 Hz 磁界の影響は、十分な数の研究で調べられている(ICNIRP2003a; WHO 2007a)。
一貫性のない結果が得られたが、それは、特定の亜系統動物の使用など実験プロトコルの違いが全体的あるいは部分的原因かも知れない。
化学物質または放射線で誘発させた白血病またはリンパ腫のモデルへの50-60 Hz 磁界ばく露の影響に関する大半の研究は否定的であった。
肝前がん病変、化学物質で誘発させた皮膚がんおよび脳腫瘍についての研究は、ほとんどが否定的結果を報告した。
全体として、低周波の磁界ばく露の細胞への影響に関する研究は、50 mT 以下において遺伝毒性の誘発を示していない(Crumpton とCollins 2004; WHO 2007a)。
総括すると、小児白血病と商用周波の磁界への長期的
ばく露との関連の疫学的証拠とは対照的に、がんの動物実験データ、特に大規模生涯研究から得られたデータは、ほぼ全面的否定的である。
細胞研究のデータは、さらに明快ではないものの、全体として動物研究を支持している。