平成23 年度 環境省請負業務結果報告書26 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・CNSの神経組織は、その空間的加算特性によって、記憶や認知過程のような機能が、生理学的には弱い電界に対しても感受性を示すようになるかも知れない。
SaundersとJefferys(2002)は、そのような弱い電界によるCNSのニューロンの電気的分極が、活動しているニューロン群の同期を増強し、周辺の活動していないニューロンの活性化に影響を与え、結局は神経細胞の興奮性と活動状態を変化させるかも知れないことを示唆した。

脳組織切片を用いたインビトロ研究の証拠は、1 順応は、例えば、立ち上がり時間の短い台形型または矩形型パルスの低周波成分に対する応答では起きないが、MR 装置の切替勾配磁界に見られるような低い繰り返し周波数では起きる。
これらの影響の閾値の最小値は、~100 Hz 以下の周波数で存在し、その大きさは100 mV m-1 の低さであろうということを示唆している(SaundersとJefferys 2007)。
二つの研究グループが、電極2を通して頭部へ直接印加した弱い電界が、ヒトの脳の電気的活動および機能に及ぼす影響を研究した。

一つのグループ(Kanai 他2008)は、大脳皮視覚野刺激を視覚野活動の特性周波数、すなわち暗条件では10 Hz 付近、または明条件では20 Hz 付近で行う場合、皮質性閃光(見かけ上は網膜に誘発される閃光と似たもの)が誘発され、それより高い周波数または低い周波数では起こらないことを報告した。

もう一つのグループ(Pogosyan 他 2009)は、視覚-運動タスクを遂行中のボランティアの皮質運動野に20 Hz 信号を印加し、タスク遂行中に手の動きが遅くなる変化が、小さいが統計的に有意にみられ、20 Hz の運動野活動周波数との同期の増大と一致することを見出した。

これより低い刺激周波数では影響は見られなかった。

要約すると、両グループは、網膜閃光閾値より強いレベルの10-20 Hz の電界が、大脳皮質の視覚野および運動野で進行中のリズム性の電気的活動と相互作用し得ること、視覚処理と運動との協調にわずかに影響することがあることを見出し、十分な強さの10-20 HzのEMFに誘導された電界には同様の影響があるかも知れないという示唆をもたらした。
しかし、その他の、低周波EMFにばく露されたボランティアにおける脳の電気的活動、認知、睡眠、気分に関する神経行動学的影響の証拠は遙かに明確さを欠く(Cook 他 2002, 2006; Crasson 2003; ICNIRP 2003a;Barth 他 2010)。

一般に、そのような研究は約1 - 2mTまたはそれ以下のばく露レベル、すなわち、上述の影響を引き起こすために必要なばく露レベルより低いレベルで行われており、せいぜいのところ、微妙で一時的な影響の証拠を示しているに過ぎない。

そのような反応を引き出すために必要な条件は、現時点では十分に明確にされていない。
EMF 全般に対して過敏(ハイパーセンシティブ)であることを訴える人がいる。しかし二重盲検による誘発研究から得られた証拠は、報告された症状はEMFばく露と関連しないことを示唆している(Rubin 他2 経頭蓋AC 刺激(tACS)には、局所的な皮膚知覚閾値より低いレベルが用いられる。2005; WHO 2007a)。

低周波の電界および磁界へのばく露が抑うつ症状または自殺の原因となるということについては、一貫性がなく決定的ではない証拠しかない(WHO 2007a)。
動物において、低周波の電界および磁界へのばく露が神経行動学的機能に影響を与える可能性について、いくつかの異なるばく露条件で多くの視点から探索が行われた。確立された影響は殆んどなかった。

動物が低周波の電界の存在を感じとることについては説得力のある証拠がある。

これはおそらく、表面電荷作用の結果、一過性の覚醒または軽度なストレス反応が生じるためと考えられる。可能性のあるその他の電界および磁界依存性の変化については明確にされていない(WHO 2007a)。
したがって、表面電荷の知覚、神経および筋組織の直接刺激、網膜閃光現象の誘発は十分に確立されており、指針の根拠として利用できる。

それに加えて、視覚処理と運動との協調などの脳機能が、誘導電界による一過性の影響を受けることがあることを示す間接的な科学的証拠がある。しかしながら、低周波の電界および磁界にばく露されたボランティアでのその他の神経行動学的研究からの証拠は、人体のばく露制限のための根拠とするには十分な信頼性はない。
神経内分泌系:ボランティア研究ならびに居住環境および労働環境の疫学研究の結果は、50-60 Hz の電界または磁界へのばく露が神経内分泌系に有害な影響を及ぼさないことを示唆している。

このことは特に、松果体から放出されるメラトニンを含む特定のホルモンの血中レベルや、身体の代謝と生理の制御に関与する数多くの下垂体放出ホルモンについてあてはまる。
50-60 Hz のばく露が夜間メラトニンレベルに与える影響に関する大半のボランティア実験研究は、可能性のある交絡因子の制御に十分な注意を払った場合、いかなる影響も見出さなかった(WHO 2007a)。
50-60 Hz の電界および磁界がラットの松果体および血清のメラトニンレベルに与える影響を調べた数多くの動物研究の中には、ばく露がメラトニンの夜間抑制を生じさせることを報告したものがあるが、一方、他の研究はそのような報告をしなかった。

季節性の繁殖期をもつ動物において、50-60 Hz の電界および磁界のばく露がメラトニンレベルおよびメラトニンに依存する生殖準備状態に与える影響に関する証拠は大部分が否定的である(ICNIRP 2003a; WHO 2007a)。ヒト以外の霊長類を用いた50-60 Hz の電界および磁界の慢性ばく露研究では、メラトニンレベルへの確かな影響は見られなかった。
多種の哺乳類の下垂体-副腎系ストレス関連ホルモンに関して一貫した影響は見られていないが、例外として、感知レベルより十分高いレベルの低周波の電界ばく露の開始直後に見られる短期的ストレスがある可能性がある(ICNIRP 2003a; WHO 2007a)。

数少ない研究しか実施されていないが、成長ホルモン、代謝活動制御に関与するホルモン、生殖および性発達制御に関連するホルモンなどのホルモンレベルへの影響も同様に、大部分は否定的または一貫性のないものであった。総括すると、これらのデータは、低周波の電界および/または磁界が、人体の健康に有害に作用するような神経内分泌系への影響を与えるということを示唆していない。
神経変性疾患:低周波の電界および磁界のばく露がいくつかの神経変性疾患に関連するという仮説が提起されている。

パーキンソン病および多発性硬化症に関しては研究数が少なく、これらの疾患と低周波ばく露の関連の証拠はない。

アルツハイマー病および筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関してはより多くの研究が公表されている。

いくつかの研究は、電気関連の職業に従事する人はALS のリスク上昇があるかも知れないことを示唆している(Kheifets 他 2009)。

これまでのところ、この関連を説明する生物学的メカニズムは確立されていないが、このリスク上昇は電気的ショックなど電気関連の職業に関係する交絡因子が原因であるかも知れない。

さらに言えば、より洗練されたばく露評価方法、例えば、職業-ばく露マトリクスなどを用いた研究は、概ね、リスク上昇を観察していない(Kheifets 他 2009)。

アルツハイマー病に関しては、結果は一貫性がない。

選択バイアスの潜在的可能性が大きな医療機関ベースの研究において最も強い関連が見られたが、人口ベースの研究においても、全てにおいてではないが、いくつかの研究でリスク上昇が観察されている。

研究内のサブグループ分析により、このデータには一貫性がないという印象が強められている(Kheifets 他 2009)。

利用可能な結果がプールされた(Garcia 他 2008)が、これには各研究結果の統計的異質性を理由とする反対意見があった。

加えて、出版バイアスの証拠もいくつかある。他の職業的ばく露の潜在的交絡の制御は一般的に行われていない。

これまでのところ唯一の利用可能な居住環境研究は、長期ばく露後のアルツハイマー病のリスク上昇を示しているが、これは非常に少ない症例数に基づいたものである(Huss 他 2009)。