平成23 年度 環境省請負業務結果報告書25 | 化学物質過敏症 runのブログ

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電界および磁界と身体との結合メカニズム

人体や動物などの身体は低周波の電界の空間分布を著しく擾乱する。

低い周波数では、身体は良導体であり、擾乱を受けた身体周辺部の電気力線は身体表面に対してほぼ垂直である。

ばく露された身体の表面に振動電荷が誘導され、これら電荷は身体内部に電流を生じさせる。人体の低周波の電界ばく露に関するドシメトリの主な特徴は以下の通りである。
・ 身体内誘導電界の大きさは外部電界よりかなり小さい。

例えば、50-60 Hzでは 5 ~ 6 桁小さい大きさである。
・ 外部電界を一定とする時、人体が両足で地面と完全に接触している(電気的に接地している)場合に誘導電界は最も強く、人体が地面から絶縁された(“自由空間”に置かれている)場合に最も弱い。
・ 地面と完全に接触した人体に流れる全電流は、人体組織の導電率ではなく、人体の大きさと形状(姿勢を含む)によって決定される。
・ 種々の器官と身体組織を流れる誘導電流の分布は、各々の身体組織の導電率によって決定される。
・ 間接的作用として、電界中に置かれた導体と身体が接触することにより、身体内に電流が生じることもある。

磁界に関しては、身体組織の透磁率は空気のものと同じであるため、身体組織中の磁界は外部磁界と同じである。

人体や動物などの身体は磁界を著しく擾乱することはない。

磁界の主な相互作用はファラデーの法則による誘導電界とそれによる組織中の誘導電流である。

電界は静磁界中での運動によっても誘導される。
人体の低周波の磁界ばく露に関するドシメトリの主な特徴は以下の通りである。
・ 磁界の強度と方向を一定とする時、身体が大きければ大きいほど強い電界が誘導される。その理由は、作られる誘導電流ループが大きくなるからである。
・ 誘導電界および誘導電流は身体に対する外部磁界の向きによって決まる。通例、磁界の向きが身体の前面から背面の方向と一致する場合、身体内誘導電界は最大になるが、器官によっては、それとは異なる磁界の向きの時に最大値となるものもある。
・ 磁界の向きが身体の体軸方向の場合、誘導電界は最も弱い。
・ 誘導電界分布は、種々の器官や身体組織の導電率の影響を受ける。

現在の科学的文献から得られる結論
神経行動学:低周波の電界へのばく露は、表面電荷作用による、知覚から不快感までの範囲の、十分に明らかにされている生物学的反応を引き起こす(Reilly1998, 1999)。

ボランティアの中で感受性の高い方から10 %の人における、50-60 Hz の直接知覚の閾値は 2 ー5 kV m- 1 の範囲であり、 同 5 % の人が不快に感じるのは15 ー 20 kV m- 1 である。

人体から地面への火花放電による痛みは、5 kV m- 1 電界中ではボランティアの7 % が感じる一方、10 kV m- 1 電界中では約50%が感じる。

帯電物体から接地した人体への火花放電の閾値は物体の大きさに依存するため、個別の評価が必要である。
低周波EMFへのばく露により誘導されるものも含めた電気的刺激に対する電気的興奮性の神経および筋組織の応答は長年にわたって十分に確立されてきた(例えば、Reilly 2002; SaundersとJefferys 2007)。

神経モデルを用いた理論計算に基づき、ヒトの末梢神経系の有髄神経線維はおよそ6 V m-1 (ピーク値)の閾値の最小値を持つと見積もられた(Reilly 1998, 2002)。

一方、磁気共鳴(MR)装置の切替勾配磁界にばく露中のボランティアに誘導される末梢神経刺激については、均一人体ファントムモデルを用いた計算を基に、その知覚閾値は約2 V m-1 程度の低さかも知れないことが示された(Nyenhuis 他 2001)。

このMR研究で得られたデータに基づき、So 他(2004)は不均一人体モデルの各組織に誘導される電界のより精密な計算を行った。

著者らは、刺激は皮膚または皮下脂肪で起きると仮定して、末梢神経刺激の閾値の最小値は4 - 6 V m-1の間であると見積もった。

さらに強い刺激では、不快な感覚、それに続いて痛みが起きる。知覚閾値の中央値を約20%上回る値が、耐え難い刺激の閾値の最小値である(ICNIRP 2004)。

中枢神経系(CNS)の有髄神経線維は、経頭蓋磁気刺激(TMS)で誘導される電界により刺激される。

TMS中の大脳皮質組織に誘導されるパルス電界は非常に強い( >100 V m-1:ピーク値)が、理論計算上の刺激閾値の最小値はかなり低く、~10V m-1 (ピーク値であるかも知れないことが示されている(Reilly 1998, 2002)。

両神経系の神経線維とも、約1-3 kHz以上では神経細胞膜上に電荷を蓄積するための時間が徐々に短くなることが原因で、また約10 Hz以下ではゆっくりした脱分極刺激に対して神経が順応1することが原因で、それぞれ閾値が上昇する。

筋細胞は、一般的に、神経組織より直接的刺激に対する感受性は低い(Reilly 1998)。

心筋組織は、その機能不調は潜在的に致死的であるため、特に注意を払って当然である。

ただし、心室細動閾値は心筋刺激閾値の 50 倍以上高い(Reilly 2002)が、心周期の中で影響を受けやすい期間に心臓を繰り返し興奮させた場合、この値はかなり低下する。

有髄神経線維に比べ筋繊維の時定数は非常に長いため、約120 Hz以上で閾値が上昇する。
直接的な神経や筋の興奮閾値を下回るレベルで、最も強固に確立された誘導電界の影響は、磁気閃光現象、すなわち視野周辺部での点滅する微弱な光の知覚、が低周波の磁界にばく露されたボランティアの網膜に誘発されることである。

磁気閃光の磁束密度での閾値の最小値は、20 Hz において5 mT程度であり、これより高い周波数および低い周波数では上昇する。

これらの研究において、磁気閃光は誘導電界と網膜の電気的興奮性細胞との相互作用によって生じると考えられている。

網膜は前脳から派生して形成された組織であり、CNS組織で一般に起きている過程をよく表現している、但し、安全側のモデルと考えることができる(Attwell2003)。

網膜における誘導電界強度での閾値は、20 Hzにおいておよそ50と100 mV m- 1の間と見積もられ、これより高い周波数および低い周波数では上昇する(SaundersとJefferys 2007)が、これらの値にはかなりの不確かさがある。