ペースメーカとの電磁干渉は、ここに推奨する参考レベルを下回るレベルでも起きるかも知れない。
これらの問題の回避に関する助言は、本文書の範囲外であり、他の文書で得ることができる(IEC 2005b)。
本ガイドラインは定期的に見直され、また低周波の時間変化する電界および磁界のばく露制限の見地から何らかの問題となるような科学的知識の進展に応じて更新される予定である。
物理量と単位
電界は電荷の存在にのみ関連するのに対し、磁界は電荷の物理的運動(電流)の結果生じる。
電界 E は電荷に力を及ぼし、ボルト/メートル(V m-1)で表される。
同様に磁界は、電荷が運動している時、および/または磁界が時間的に変化している時に、電荷に物理的な力を及ぼす。
電界および磁界は大きさと方向を持つ(すなわちベクトルである)。
磁界は2つの表記法、すなわち磁束密度 B(テスラ(T))、または磁界強度 H(アンペア/メートル (A m-1) )で表される。
この2つの物理量には次式のような関係がある。
B = μH (1)
ここで、μ は比例定数(透磁率)である。
真空中および空気中、ならびに非磁性体(生体材料を含む)中で、μ の値は 4π×10-7 ヘンリー/メートル (H m-1) である。
したがって、防護を目的とした磁界の表記には、物理量 B または H のどちらか一方を明確にすればよい。
時間変化するEMF にばく露されると、身体組織に体内電界、体内電流およびエネルギー吸収が生じるが、それらは結合メカニズムと周波数によって決まる。
体内電界E iと電流密度J にはオームの法則による次のような関係がある。
J = sE i (2)
ここで、s は媒質の導電率である本ガイドラインで用いられるドシメトリの物理量は次のとおりである。
・ 電界 E i ;および
・ 電流 I
本ガイドラインで用いられるEMF およびドシメトリの物理量と単位の概要を表1に示す。
表1.本ガイドラインで用いる物理量とそのSI単位
物理量 記号 単位
導電率 s シーメンス/メートル(S m-1)
電流 I アンペア(A)
電流密度 J アンペア/平方メートル(A m-2)
周波数 f ヘルツ(Hz)
電界強度 E ボルト/メートル(V m-1)
磁界強度 H アンペア/メートル(A m-1)
磁束密度 B テスラ(T)
透磁率 μ ヘンリー/メートル(H m-1)
誘電率 e ファラッド/メートル(F m-1)
ばく露制限の科学的根拠
このばく露制限ガイドラインは、既刊の科学的文献を徹底的に精査した上で作成された。
報告された知見の研究方法、結果、結論の科学的妥当性は、十分に確立されたクライテリアを用いて評価された。
信頼できる科学的証拠がある影響のみがばく露制限の根拠として用いられた。
低周波電磁界ばく露の生物学的影響は、国際がん研究機関(IARC)、ICNIRP、世界保健機関(WHO)(IARC2002; ICNIRP 2003a; WHO 2007a)および各国の専門家グループによりレビューされている。
それらの刊行物は本ガイドラインの科学的根拠を提供している。
ガイドラインの根拠は、以下に詳述される2つの要素から成る。
一つは、低周波の電界へのばく露が引き起こす可能性がある、十分に明らかにされている生物学的反応、すなわち表面電荷作用による、知覚から不快感までの範囲の反応である。
もうひとつは、低周波の磁界ばく露されたボランティアにおいて、十分に確立された唯一の作用である、中枢および末梢神経組織刺激と網膜閃光現象誘発である。
閃光現象とは視野周辺部に点滅する微弱な光を知覚することである。網膜は中枢神経系(CNS)の一部であり、誘導電界がCNS神経回路に一般的に及ぼす影響の適切な、但し、安全側のモデルとみなされる。
科学的データが本来有する不確かさの観点から、ばく露制限ガイドラインの制定においては低減係数が適用される。詳細はICNIRP 2002 を参照されたい。