・Q.7:国際的なガイドラインとはどのようなものですか?
A.7:最も広く利用されているのは、WHO が正式に認知している非政府機関である国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインです。
このガイドラインは、刺激作用や熱作用により健康影響を生じることがわかっているばく露レベルに対して必要に応じて安全上の余裕を盛り込んで、ばく露限度を制定しています。
【解説】
非常に強い電磁界に人体がばく露されると、健康影響が生じる恐れがあります。
この健康影響から人体を防護するため、どのようにばく露を制限したら良いかを示すのが、ガイドライン(防護指針)です。
電磁界の物理的性質は科学的に十分に理解されており、人体への作用についても、長年の研究から多くのデータが蓄積されています。
ガイドラインは、このような確立された科学的知識を基に作られています。
最も広く利用されているのは、WHO が正式に認知している非政府機関である国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインです39。
このICNIRP ガイドラインについては、欧州連合(EU)理事会がEU 加盟各国に採用を勧告している40のをはじめ、南米やアジア・オセアニアなど、世界中の約50 カ国で採用が進んでいます。
○ ガイドラインの根拠
ICNIRP のガイドラインは、査読(同じ分野の研究者による審査)を経て学術誌に掲載された膨大な数の科学論文を根拠としています。
査読された論文は信頼性が高いと見なされますが、全てがガイドラインの根拠になるわけではなく、再現性の確認や、「影響がない」という結果が掲載されない「出版バイアス」の影響の排除など、査読された科学論文であっても、その内容を精査する必要があります。
39 ICNIRP、「時間変化する電界、磁界及び電磁界によるばく露を制限するためのガイドライン(300GHz まで)」(1998 年(平成10 年))http://www.icnirp.de/documents/emfgdljap.pdf
40 欧州連合理事会、「電磁界(0Hz から300GHz まで)への一般公衆のばく露の制限に関する1999 年7 月12 日付理事会勧告」(Council Recommendation of 12 July 1999 on the limitation of exposure of the general public toelectromagnetic fields (0 Hz to 300 GHz) (1999/519/EC))(1999 年(平成11 年))
http://ec.europa.eu/enterprise/sectors/electrical/files/lv/rec519_en.pdf
100kHz までの電磁界(超低周波及び中間周波)へのばく露による刺激作用や、100kHz を超える電磁界(中間周波及び高周波)へのばく露による熱作用については、十分に理解され、確立されています。
これらの作用には、反応の強さに関係するばく露強度の指標があり、その指標と影響の大きさの関係が明らかにされています。
具体的には、刺激作用については頭部の中枢神経系組織ならびに頭部及び胴体の全組織に誘導される電界強度、熱作用については単位質量の生体組織当たりの吸収電力(比吸収率、SAR)がばく露指標です。
これらの作用には「しきい値」(反応を生じる刺激の最小値)があり、このしきい値に基づいて必要に応じて適切な「低減係数」を適用することによって安全上の余裕を盛り込み、ガイドラインの限度値が導かれます。
この限度値は、「基本制限」と呼ばれます。
○ 基本制限
ICNIRP は2010 年(平成22 年)に、100kHz までの電磁界(超低周波及び中間周波)に関するガイドラインを改訂しました41。
この周波数範囲でのガイドラインは刺激作用による影響を防止する観点から定められています。
頭部の中枢神経系組織についての基本制限は、網膜での閃光現象を生じるしきい値の下限値(10~25Hz で50mV/m)に基づき、職業的ばく露に対しては低減係数を適用せずに50mV/m、公衆のばく露に対しては低減係数5(=5 分の1)を適用して10mV/m としています。
頭部及び胴体の全組織についての基本制限は、末梢神経系の刺激を生じるしきい値(3kHz 以下の周波数では4V/mで一定)に基づき、職業的ばく露に対しては低減係数5(=5 分の1)を適用して0.8V/m、公衆のばく露に対しては低減係数10(=10 分の1)を考慮して0.4V/m としています。
3kHz 以上の周波数ではこれらの値は上昇します。
なお、100kHz から10MHz の周波数範囲については、ばく露条件によって、神経系への影響の防護も考える必要があるため、このガイドラインでは10MHz までを対象としています。
100kHz を超える電磁界(高周波)のガイドラインは、熱作用による影響を防止する観点から定められています。
健康に影響を及ぼすしきい値を全身平均SAR で4W/kg、局所SAR で100W/kgと推定し、職業的ばく露に対しては低減係数10(=10 分の1)を適用して、基本制限を全身平均SAR で0.4W/kg、局所SAR(10g の組織の平均値)で10W/kg(頭部と胴体)、公衆のばく露に対しては更に低減係数5(=5 分の1)を適用して、全身平均SAR で0.08W/kg、局所SAR で2W/kg(頭部と胴体)としています。
41 ICNIRP 声明、「時間変化する電界及び磁界へのばく露制限に関するガイドライン(1Hz から100kHz まで)(2010年(平成22 年))http://www.icnirp.de/documents/statgdljap.pdf