・Q.6:電磁界は医療機器に影響を及ぼすのですか?
A.6:電磁界は、電気・電子機器に誤作動などの影響を及ぼすことがあり、特に心臓ペースメーカなどの植込み式医療機器については、装着者に健康影響が生じる恐れがあることから、装着者や医療従事者、機器製造者などが情報を共有し、影響の防止に努めていくことが重要です。
【解説】
電磁界は、人体に直接影響を及ぼさないような非常に低いレベルであっても、電気・電子機器に誤作動などの影響を及ぼすことがあります。
特に、心臓ペースメーカや除細動器などの植込み型医療機器については、電磁界により誤作動が発生した場合、装着者に健康影響が生じる恐れがあることから、装着者や医療従事者、機器製造者などが情報を共有し、影響の防止に努めていくことが重要です。
○ 携帯電話による影響について
電磁界発生源の中でも、携帯電話は広く普及していることから、使用者が心臓ペースメーカ装着者に気付かずに接近する恐れがあり、その影響が懸念されています。
携帯電話による植込み型医療機器への影響の発生・防止に関する情報としては、医療機関の電気機器33も対象とした指針34が策定されています。この指針の要点は以下のとおりです。
I 医療機関の屋内における無線設備の利用
1 携帯電話端末の使用
これまでに収集した国内の実験データ、海外での文献等を検討した結果、医療機関の屋内においては、携帯電話端末から発射される電波により、医用電気機器が誤動作する可能性があるため、次のとおり取り扱うことが望ましい。
(1) 手術室、集中治療室(ICU)及び冠状動脈疾患監視病室(CCU)等
携帯電話端末を持ち込まないこと。やむを得ず持ち込む場合は電源を切ること。
また、これらの部屋の周囲(隣接する上下階及び左右の部屋、廊下等)においても、携帯電話の電源を切ること。
33 日本工業規格(JIS T0601-1 やその副通則)では「医用電気機器」という用語を用いています。
34 不要電波問題対策協議会(現・電波環境協議会)、「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」(平成9 年)http://www.emcc-info.net/others/keitai.html
(2) 検査室、診察室、病室及び処置室等(透析室、新生児室を含む。)
携帯電話端末の電源を切ること。
35また、検査室、診察室、病室及び処置室等の周囲(隣接する上下階及び左右の部屋、廊下等)においても、携帯電話端末の電源を切ること。
(3) その他の区域
待合室など医療機関側が携帯電話の使用を特に認めた区域でのみ携帯電話を使用すること。(注)36
ただし、医療機関側が使用を認めた区域においても、緊急時などでは、やむを得ず医用電気機器を使用する可能性があるため、付近で医用電気機器が使用されている場合には、携帯電話端末の電源を切ること。
(中略)
II 植込み型心臓ペースメーカ装着者の注意事項
植込み型心臓ペースメーカは、その近くで携帯電話端末、自動車電話、ショルダーホン、PHS 端末、コードレス電話及び小型無線機を使用したときに、電波による影響を受ける可能性がある。
実験結果によれば、この影響は一時的かつ可逆的(元に戻る)であるが、植込み型心臓ペースメーカを装着している人は、次の事項を遵守することが望ましい。
1 携帯電話の使用及び携行に当たっては、携帯電話を植込み型心臓ペースメーカ装着部位から22cm 程度以上離すこと。
また、混雑した場所では付近で携帯電話が使用されている可能性があるため、十分に注意を払うこと。
(中略)
III 医療機関以外での医用電気機器の使用
1 在宅医療
人工呼吸器、酸素濃縮装置等の医用電気機器を在宅医療に用いる場合には、少なくとも医用電気機器が使用されている家屋内においては、アマチュア無線機、携帯電話端末等の電波の発生源の電源を切ることが望ましい。
2 在宅医療以外
植込み型心臓ペースメーカ以外にも医療機関以外の場所で医用電気機器が使用される場合があるが、これらの機器の使用者は無線通信システムからの電波による影響について、個別に医用電気機器製造業者、電気通信事業者等の関係者に確認を行うことが望ましい。
35 この指針では、「(3)の注に基づいて、各医療機関が独自に使用者や使用区域を限定して携帯電話が使用できる
区域を設定することを妨げるものではない。」とされています。
36 この指針では、「(注)医療機関は、携帯電話端末の使用を認める区域を設定する場合には、当該区域及びその
周囲(隣接する上下階及び左右の部屋、廊下等)において医用電気機器を使用しないことを確認すること。」と
されています。
IV 植込み型心臓ペースメーカ装着者及び補聴器使用者への配慮
1 外見だけでは特定できない植込み型心臓ペースメーカ装着者への配慮
携帯電話端末、PHS 端末、コードレス電話又は小型無線機(アマチュア無線機、パーソナル無線機及びトランシーバ(特定小電力無線局のものを除く)等)の所持者は、第Ⅱ項で示したような植込み型心臓ペースメーカ装着者と近接した状態となる可能性がある場所(例:満員電車等)では、その携帯電話端末等の無線機の電源を切るよう配慮することが望ましい。
総務省ではその後、新たな方式による携帯電話が使用されるようになったことや、新たな無線機器の利用が拡大してきたことなどを踏まえ、各種の機器から発せられる高周波電磁界が植込み型医療機器に及ぼす影響について調査を実施しています37。
○ IH 式電気炊飯器や電子商品監視機器などによる影響について
IH 式電気炊飯器、電子商品監視機器(EAS)及び金属探知システムなどの各種の電磁界発生源については、心臓ペースメーカなどの装着者や医療機関などを対象に、厚生労働省医薬食品局(旧・厚生省医薬安全局)から以下のような注意喚起がなされています。
医薬品等安全性情報No.155(厚生省医薬安全局、平成11 年6 月)
「3. 万引き防止監視および金属探知システムの植込み型心臓ペースメーカ、植込み型除細動器および脳・脊髄電気刺激装置への影響について」
情報の概要:
近年、万引き防止監視システム(ゲート)の小売店等の出入口への設置が普及する傾向にある。
また、空港等では警備のため金属探知器が使われている。これらのシステムの発生する磁場が植込み型心臓ペースメーカ、植込み型除細動器および脳・脊髄電気刺激装置に電磁干渉を及ぼし、患者の健康に影響する可能性があることから、使用している患者に注意を促す必要がある旨の注意情報が米国食品医薬品局(FDA)から発せられた。
我が国において、当該問題により患者の健康に影響が認められたとの報告例はないが、今後万引き防止監視システムの普及や心臓ペースメーカ装着者の海外旅行等により、米国FDA が指摘した危険性は増していくことが考えられるため、注意喚起を行うものである。
37 総務省、「電波の医療機器等への影響に関する調査」
http://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/ele/medical/cyousa/index.htm
医薬品・医療用具等安全性情報 No.173(厚生労働省医薬食品局、平成14 年1 月)
「3. 盗難防止装置および金属探知器の植込み型心臓ペースメーカ,植込み型除細動器および脳・脊髄電気刺激装置(ペースメーカ等)への影響について」
情報の概要:
盗難防止装置および金属探知器から発せられる電磁波の影響により、ペースメーカ等が誤動作を起こす可能性について、平成11 年6 月発行の医薬品等安全性情報No.155「万引き防止監視および金属探知システムの植込み型心臓ペースメーカ、植込み型除細動器および脳・脊髄電気刺激装置への影響について」において広く注意喚起を行ってきたところである。
しかし、今般、国内で、図書館内の盗難防止装置の影響により植込み型ペースメーカの設定がリセットされたとの症例が報告されたことを踏まえ,再度注意喚起を行うものである。
医薬品・医療用具等安全性情報 No.185(厚生労働省医薬食品局、平成15 年1 月)
「1. IH 式電気炊飯器等による植込み型心臓ペースメーカ、植込み型除細動器および脳・脊髄電気刺激装置(ペースメーカ等)への影響について」
情報の概要:
国内で IH 式電気炊飯器の影響により植込み型心臓ペースメーカの設定がリセットされたとの症例が報告されたことを踏まえ、電磁気家電製品から発出される電磁波によって、ペースメーカ等が受ける影響について製造業者等が自己点検を実施することとし、また、医療関係者およびペースメーカ等を使用している患者に対しIH 式電気炊飯器等の強力な電磁波を出す可能性のある電磁気家電製品を使用する場合は、そのそばに必要以上に長く留まらないこと、植え込まれたペースメーカ等が近づくような体位をとらないことについて注意喚起することとした。
○ 業界団体の対応について
日本医用機器工業会(現・一般社団法人日本医療機器工業会)傘下の「ペースメーカ協議会」(現・一般社団法人日本不整脈デバイス工業会)は平成19 年、「ペースメーカ、ICD(植込み型除細動器)をご使用のみなさま こんなときにはご注意を!」と題する啓蒙ポスターで、IH 炊飯器・調理器、電子商品監視装置(EAS)、電子タグ(RFID)、非接触IC カード、磁気治療器などから発せられる電磁界が医療機器へ与える影響について、心臓ペースメーカなどの装着者に注意喚起を行っています38。
38 http://www.jadia.or.jp/images/poster/wide/pos2007w.pdf