○ 100kHz を超える電磁界(携帯電話や放送局など)の健康影響
WHO は2006 年(平成18 年)に、基地局及び無線技術からの高周波電磁界の健康影響に関して「ファクトシートNo.304」を発行しました18。
このファクトシートの結論は以下のとおりです。
非常に低いばく露レベル、および今日までに集められた研究結果を考慮した結果、基地局および無線ネットワークからの弱いRF 信号が健康への有害な影響を起こすという説得力のある科学的証拠はありません。
また、WHO は2011 年(平成23 年)に、携帯電話からの高周波電磁界の健康影響に関して「ファクトシートNo.193」の改訂版を発行しました19。
このファクトシートの主な内容は以下のとおりです。
?? 短期的影響
?? 組織における熱の発生は、RF エネルギーと人体との間の相互作用の主要なメカニズムです。携帯電話に利用されている周波数においては、エネルギーの大部分は皮膚やその他の表面的組織に吸収され、その結果、脳またはその他の器官での温度上昇は無視しうる程度になります。
多くの研究が、ボランティアの脳の電気的活動、認知機能、睡眠、心拍数や血圧にRF 電磁界が及ぼす影響を調べてきました。
今日まで、組織に熱が発生するよりも低いレベルのRF 電磁界ばく露による健康への悪影響について、研究による一貫性のある証拠は示唆されていません。
さらには、電磁界ばく露と自己申告の身体症状または“電磁過敏症”との因果関係について、研究による裏付けは得られていません。
?? 長期的影響
?? RF 電磁界ばく露による潜在的な長期リスクを調査した疫学研究は、そのほとんどが脳腫瘍と携帯電話使用との関連を探索してきました。
しかしながら、多くのがんは、腫瘍に至るような相互作用があってから長い年数を経るまで検出できないため、また、携帯電話は1990 年代初めまで普及していなかったため、現時点での疫学研究は、比較的短い誘導期間で出現するがんしか評価できません。
しかしながら、動物研究の結果は、RF電磁界の長期的ばく露でのがんリスク上昇がないことを一貫して示しています。
?? 複数の大規模な多国間疫学研究が完了または進行中です。
これには、成人の健康影響
18 WHO ファクトシートNo.304「電磁界と公衆衛生:基地局及び無線技術」(2006 年(平成18 年))
http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/bs_fs_304_japaneseV2.pdf
より。
19 WHO ファクトシートNo.193「電磁界と公衆衛生:携帯電話」(2011 年(平成23 年))
http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/FS193_June2011_Japanese.pdf
より。
19
項目を多数調べた症例対照研究と前向きコホート研究が含まれています。今までで最大規模の成人を対象とした後ろ向き症例対照研究であるINTERPHONE は、国際がん研究機関(IARC)が調整して、携帯電話使用と成人の頭頚部のがんとの関連があるかどうかを確認するためにデザインされました。
参加した13 カ国からの収集データの国際的プール分析によれば、10 年以上の携帯電話使用に伴う神経膠腫および髄膜腫のリスク上昇は見られませんでした。
使用期間の増大に伴うリスク上昇の一貫した傾向はありませんでしたが、自己申告された携帯電話の累積使用時間が上位10%に入った人々において、神経膠腫のリスク上昇を示唆するものがありました。
研究者らは、バイアスと誤差があるために、これらの結論の強固さは限定的であり、因果的な解釈はできないと結論しています。
主としてこれらのデータに基づき、国際がん研究機関(IARC)は、無線周波電磁界は「ヒトに対して発がん性があるかもしれない」(グープ2B)に分類しました。
このカテゴリーは、因果関係は信頼できると考えられるが、偶然、バイアス、または交絡因子を根拠ある確信を持って排除できない場合に用いられます。
?? 脳腫瘍のリスク上昇は確立されなかったものの、携帯電話使用の増加と15 年より長い期間の携帯電話使用についてのデータがないことは、携帯電話使用と脳腫瘍リスクのさらなる研究が必要であることを正当化しています。
特に、最近の若年者における携帯電話使用の普及と、それによる生涯ばく露の長期化に伴い、WHO は若年者グループに関する今後の研究を推進しています。
小児および思春期層における潜在的な健康影響を調査するいくつかの研究が進行中です。
[補足説明] 高周波電磁界の発がん性
世界中での携帯電話の急激な普及により、携帯電話使用に伴う高周波電磁界へのばく露による健康への悪影響についての懸念が生じたことから、1990 年代後期、幾つかの専門家グループが、携帯電話使用の健康への悪影響の可能性についての研究を勧告しました。
その結果、IARC が実施可能性研究を調整し、携帯電話使用と脳腫瘍リスクとの関連についての国際研究は実施可能で有益であろうと結論付けました。
これを受けて、IARC は、携帯電話使用による高周波電磁界へのばく露と、頭部及び頸部の腫瘍のリスクとの関連について調べるため、我が国を含む13 カ国が参加する国際的な大規模疫学研究(通称インターフォン研究)を実施しました。
この研究のうち、神経膠腫20及び髄膜腫21に関する結果は2010 年(平成22 年)、聴神経腫22に関する結果は2011 年(平成23 年)に、それぞれ論文発表されました。
これによれば、携帯電話の定常的使用者23には、非使用者及び非定常的使用者と比較して、神経膠腫及び髄膜腫のリスク低下が認められました。最初の携帯電話使用から10 年以上後にもリスク上昇は認められませんでした。
但し、累積通話時間の上位10%(1640 時間以上:1 日当たり平均30 分間の使用を10 年間続けた場合に相当)の使用者にはリスク上昇が認められました。
また、腫瘍と同じ側の頭部で携帯電話を通常使用すると報告した人々には、反対側で使用すると報告した人々と比較して、神経膠腫のリスクが高い傾向が認められました。
しかしながら、これらの結果には偏りや誤差が影響している可能性があるため、因果関係があると解釈することはできないと結論付けられました。
聴神経腫についても、ほぼ同様の結果と結論が示されました。
IARC は2011 年(平成23 年)、高周波電磁界の発がん性評価のため、我が国を含む15 カ国から参加した30 名の研究者で構成される作業グループ会議を開催しました。
この作業グループは、インターフォン研究と、スウェーデンの研究チームが実施した一連の疫学研究の結果などに基づき、人に関する限定的な証拠あり、また、複数の実験研究の結果から、実験動物に関する限定的な証拠ありと判断し、最終的に高周波電磁界を「発がん性があるかもしれない」(グループ2B)と分類しました24。
20 脳を構成する細胞の一種である神経膠(しんけいこう)細胞から発生する脳腫瘍の総称です。
21 脳腫瘍の一種で、脳を包んでいる髄膜に発生します。
22 脳・脊髄腫瘍の一種で、聴神経を取り巻いて支える鞘(さや)から発生します。
23 インターフォン研究では、携帯電話を週 1 回以上、6 ヶ月間以上にわたって使用していた人々を「定常的使用者」と定義し、これに該当しない人々と脳腫瘍のリスクを比較しています。
24 IARC 報道発表No.208、「IARC は高周波電磁界を人に対して発がん性があるかもしれないと分類」(IARC
classifies radiofrequency electromagnetic fields as possibly carcinogenic to humans)(2011 年(平成23 年))
http://www.iarc.fr/en/media-centre/pr/2011/pdfs/pr208_E.pdf
より。
21
なお、IARC はその後、「携帯電話使用とがんのリスクとの関連の可能性:質問と回答」を公表しました。
この中で、上述の作業グループ会議の後に論文発表された、デンマークにおける携帯電話契約者についての全国規模のコホート研究で、脳腫瘍のリスク上昇が認められなかったことに言及しています25。
IARC は、高周波電磁界の発がん性に関する詳細な評価結果を取りまとめ、「人に対する発がんリスクの評価に関するIARC モノグラフVol.102、非電離放射線その2:高周波電磁界」として2012年(平成24 年)に刊行予定です。
その後、WHO が、発がん性以外の健康影響を含む高周波電磁界の総合的な健康リスク評価を実施し、その集大成である国際的な専門家によるレビュー結果を環境保健クライテリアとして取りまとめる予定です。
25 IARC、「携帯電話使用とがんのリスクとの関連の可能性:質問と回答」(Possible relationship between use ofmobile phones and the risk of cancer: Questions and Answers)(2011 年(平成23 年))
http://www.iarc.fr/en/media-centre/iarcnews/2011/IARC_Mobiles_QA.pdf
22
[補足説明] IARC の発がん性評価
参考までに、IARC の発がん性分類と、化学物質などの作用因子についてのこれまでの評価結果の例を表2 に示します。
26 IARC ウェブサイト「評価済みの作用因子とその分類一覧表」(Complete List of Agents evaluated and theirclassification)http://monographs.iarc.fr/ENG/Classification/index.php
を基に作成(各グループの作用因子の数は平成24 年2 月末時点)。
27 かび毒の一種。
但し、生体内の代謝産物であるアフラトキシン M1 はグループ2B。
28 ダイオキシン類の一種。但し、この他のダイオキシン類では、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフランはグループ3。
29 抗がん剤の一つ。
30 ナイロンの原料。
23
[参考] 電磁過敏症(電磁波過敏症)
日常生活で電磁界にばく露される機会が増えていることを背景に、刺激作用や熱作用を生じるよりも遥かに低いレベルの電磁界にばく露されることにより、頭痛や睡眠障害などの不特定の症状が生じるのではないかという、いわゆる「電磁過敏症」(電磁波過敏症)31について関心が高まっています。
WHO は2005 年(平成17 年)に、電磁過敏症に関して「ファクトシートNo.296」を発行しています32。
このファクトシートの結論は以下のとおりです。
電磁過敏症は、人によって異なる多様な非特異的症状が特徴です。
それぞれの症状は確かに現実のものですが、それらの重症度はまちまちです。
電磁過敏症は、その原因が何であれ、影響を受けている人にとっては日常生活に支障をきたす問題となり得ます。
電磁過敏症には明確な診断基準がなく、電磁過敏症の症状を電磁界ばく露と結び付ける科学的根拠はありません。
その上、電磁過敏症は医学的診断でもなければ、単一の医学的問題を表しているかどうかも不明です。
31 報道などでは「電磁波過敏症」が用いられていますが、本書では WHO での名称に従い、「電磁過敏症」と表記します。
32 WHO ファクトシートNo.296「電磁界と公衆衛生:電磁過敏症」(2005 年(平成17 年))
http://www.who.int/peh-emf/project/ehs_fs_296_japanese.pdf
runより:電磁波過敏症について触れてますがファクトシートNo.296を盾にして病気と認めてない事が分かります。