平成23 年度 環境省請負業務結果報告書7 | 化学物質過敏症 runのブログ

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Q.5:電磁界の健康影響についてはどのようなことが分かっていますか?
A.5: 電磁界の健康影響については、送電線の近くでは白血病が増えるのでは、とか携帯電話を使用すると脳腫瘍が増えるのでは、といった懸念を一般の方々が抱いています。

これらについて、WHO では以下のような見解を示しています。
静電磁界(MRIなど)については、発がん性の証拠はなく、地磁気の数百倍に相当する強い静磁界にばく露される特殊な状況では、めまいや吐き気といった感覚が生じる場合があるとしています。

低周波電磁界(送電線など)については、「全体として、小児白血病に関連する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではありません」との見解を示しています。

また、その他の疾病についての証拠は「小児白血病についての証拠よりもさらに弱い」と結論付けています。
高周波電磁界については、携帯電話基地局など(無線LAN を含む)では「携帯電話基地局などからの弱い高周波電磁界が健康への有害な影響を起こすという説得力のある科学的証拠はありません」との見解を示しています。

また、携帯電話では、脳腫瘍のリスク上昇との因果関係は確立されていないものの、長期間の使用と脳腫瘍のリスク上昇との関連についてのデータが少ないことから、「携帯電話使用と脳腫瘍リスクのさらなる研究が必要」としています。

【解説】
世界保健機関(WHO)は「国際電磁界プロジェクト」(p.17[補足説明]参照)の一環として、国際がん研究機関(IARC)による電磁界の発がん性評価、ならびに総合的な健康リスク評価を実施しています。

これまでに、静電磁界ならびに100kHz までの超低周波及び中間周波電磁界についての評価が完了しており、その集大成である国際的な専門家によるレビュー結果を「環境保健クライテリア」として取りまとめるとともに、WHO として「ファクトシート」を発行しました。

これらには、我が国で行われた様々な研究の成果や各省での取り組みも反映されています。

○ 静電磁界(MRI、地磁気など)の健康影響
WHO は2006 年(平成18 年)に、静電磁界(MRI、地磁気など)の健康影響に関して、国際的な専門家によるレビュー結果を「環境保健クライテリアNo.232」10として取りまとめるとともに、WHO として「ファクトシートNo.299」11を発行しました。

評価の主な内容は以下のとおりです。
静電界

IARC は、静電界の発がん性を判断するのに十分な証拠はないと指摘。
研究結果は全体として、急性影響として認められるのは電界の直接知覚と放電による不快だけであると示唆。
静磁界
IARC は、静磁界の発がん性を判断するのに十分な証拠はないと指摘。
数 T の静磁界とこれに関係する磁界勾配への短期ばく露は幾つかの急性影響を引き起こす。
人間のボランティアや動物に関する研究では、血圧や心拍数の変化といった心臓血管系の反応が時々観察されている。

但し、そうした反応は、最大8T の静磁界へのばく露については通常の生理的変動の範囲内。
勾配のある静磁界内で身体を動かすと、めまいや吐き気といった感覚が発生し、静磁界が約2~4T を超える場合には眼内閃光や口内の金属質の味覚が生じる場合がある。
こうした影響は一過性のものに過ぎないが、人に対しては悪影響を及ぼすかもしれない。目と手の協調への影響と合わせると、繊細な作業を実施する作業者(例えば外科医)の遂行能力が低下し、同時に安全性に影響が生じる可能性がある。
* WHO 環境保健クライテリアNo.232「静電磁界」(2006 年(平成18 年))より。
10 WHO 環境保健クライテリアNo.232「静電磁界」(Environmental Health Criteria Monograph No.232. Static Fields)(2006 年(平成18 年))http://www.who.int/peh-emf/publications/reports/ehcstatic/en/index.html
11 WHO ファクトシートNo.299「電磁界と公衆衛生:静電界及び磁界」(2006 年(平成18 年))
http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/smf_factsheet299_japaneseV2.pdf

○ 100kHz までの電磁界(家電製品、送電線など)の健康影響
WHO は2007 年(平成19 年)に、100kHz までの超低周波及び中間周波電磁界(家電製品、送電線など)の健康影響に関して、国際的な専門家によるレビュー結果を「環境保健クライテリアNo.238」12として取りまとめるとともに、WHO として「ファクトシートNo.322」13を発行しました14。

評価の主な内容は以下のとおりです。
:急性影響
100kHz までの周波数範囲の電界及び磁界へのばく露については、健康影響を生じる急性の生物学的影響が認められている。

ゆえに、ばく露限度が必要である。

この問題に対処する国際的なガイドラインが存在する。これらのガイドラインを遵守することにより、急性影響に対する適切な防護が得られる。

:慢性影響
日常的な、慢性的な低強度15(0.3~0.4μT 以上)の超低周波磁界ばく露が健康リスクを生じるということを示唆する科学的証拠は、小児白血病のリスク上昇についての一貫したパターンを示す疫学研究に基づいている。

ハザードの評価には不確実性(選択バイアス及びばく露の誤分類の可能性が排除できず、実験研究及びメカニズムに関する証拠はこの関連を支持していない)があり、因果関係があると考えるほどには証拠は強くないが、関心を残すには十分に強い。
その他のいくつかの疾患が、超低周波磁界ばく露との関連の可能性について調べられている。

これらには、小児及び成人のがん、うつ病、自殺、生殖機能障害、発育異常、免疫学的変異及び神経学的疾患が含まれる。

超低周波磁界とこれらの疾患とのつながりを支持する科学的証拠は、小児白血病についてよりもさらに弱く、いくつかの場合(例えば、心臓血管系疾患や乳がん)においては、磁界が疾患を誘発しないと確信するのに十分な証拠がある。
* WHO 環境保健クライテリアNo.238「超低周波電磁界」(2007 年(平成19 年))より。
12 WHO 環境保健クライテリアNo.238「超低周波電磁界」(Environmental Health Criteria Monograph No.238. Extremely
Low Frequency Fields)(2007 年(平成19 年))http://www.who.int/peh-emf/publications/elf_ehc/en/index.html
13 WHO ファクトシートNo.322「電磁界と公衆衛生:超低周波の電界及び磁界へのばく露」(2007 年(平成19 年))
http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/fs322_ELF_fields_japaneseV2.pdf
14 環境保健クライテリア No.238 及びファクトシートNo322 には、超低周波電磁界に加えて、100kHz までの中間周波電磁界についての評価も含まれています。

これは、100kHz までの中間周波電磁界と生体との相互作用が、超低周波電磁界と同じ刺激作用によるものであるためです。
15 国際的なガイドライン(p.28 参照)の指針値(2007 年当時は50Hz で100μT、60Hz で83μT。2010 年の改訂版ではともに200μT)より低いという意味です。

[補足説明] 超低周波磁界の発がん性
送電線の周囲には 50Hz または60Hz の超低周波磁界が生じています(p.9 参照)。

この超低周波磁界へのばく露に関連して、「送電線の近くに住む子供は小児白血病に罹りやすいのではないか」との懸念が示されています。
このことは、米国で 1979 年(昭和54 年)に「磁界が高いと想定される送電線の近くに住む子供は小児がんのリスクが高い」という疫学研究の結果に端を発しています。

その後の疫学研究でも、送電線の周囲での国際的なガイドライン(p.28 参照)よりも遥かに低いレベルの超低周波磁界へのばく露と、小児白血病のリスク増加との関連を示す結果が報告されるようになりました。
こうした状況から、WHO は1996 年(平成8 年)、電磁界の健康リスク評価などを目的とした「国際電磁界プロジェクト」を発足させました。同プロジェクトの一環として、WHO の下部組織である国際がん研究機関(IARC)が2002 年(平成14 年)、静電磁界及び超低周波電磁界に発がん性があるかどうかの評価結果を公表しました16。
超低周波磁界については、複数の疫学研究を統合して分析(プール分析)した結果、生活環境での0.3~0.4μT を超えるレベルでのばく露と小児白血病のリスク増加との間に一貫した関連が見られることから、人に関する限定的な証拠ありとする一方、実験動物に関する証拠は不十分であることから、「発がん性があるかもしれない」(グループ2B)と分類しています。

超低周波電界と静電界、静磁界については、人に関する証拠は不十分で、実験動物に関するデータは得られなかったことから、「発がん性を分類できない」としています。
超低周波磁界を「発がん性があるかもしれない」としたIARC の評価に関連して、WHO は「全体として、小児白血病に関連する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではありません」との見解を示しています17。また、その他の疾病についての証拠は「小児白血病についての証拠よりもさらに弱い」と結論付けています。
16 IARC、「人に対する発がんリスクの評価に関するIARC モノグラフVol.80、非電離放射線その1:静電磁界及び超低周波電磁界」(IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Volume 80. Non-IonizingRadiation, Part 1: Static and Extremely Low-Frequency (ELF) Electric and Magnetic Fields)(2002 年(平成14 年))
http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol80/volume80.pdf
17 WHO ファクトシートNo.322「電磁界と公衆衛生:超低周波の電界及び磁界へのばく露」(2007 年(平成19 年))
http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/fs322_ELF_fields_japaneseV2.pdf