DDVP(ジクロルボス)論文13 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・8.呼吸器への影響
DDVP を吸入させると、血液のコリンエステラーゼに影響を与えなくても、呼吸器系に影響を及ぼすことを証明した研究がある。

DDVP 濃度は0.8 及び1.8 μ g/L で、被ばく期間は3 日間であった。

気管支のアセチルコリンエステラーゼ活性はそれぞれ対照の約6 割と5 割に低下したが、血液のアセチルコリンエステラーゼ活性の低下は見られなかった。

高濃度(4.3 μ g/L)では血液のアセチルコリンエステラーゼ活性も低下する(対照の約4 割)。組織化学的には気管支腺と平滑筋の酵素活性が最少量の被ばく(0.2 μ g/L)でさえ強い減少を示した。

これらのことは呼吸器の慢性閉塞性疾患で気管支痙攣と分泌過剰に少なくとも関連すると思われる(Schmidt et al.1978)。

このことは喘息の憎悪に関しても懸念材料である。
DDVP を生後3 か月の牛に静脈注射して中毒を起こさせた。

投与1 分後には重度な呼吸困難や興奮・衰弱・筋繊維性攣縮・コリンエステラーゼ阻害を示した。

肺のコンプライアンスと動脈酸素圧の低下と全肺抵抗、気道の抵抗、肺胞動脈勾配の増加が有意に見られた。

体の分泌や心拍数・呼吸速度・一回換気量・動脈二酸化炭素圧はDDVP によって有意な影響を受けない。

筋繊維性攣縮と中枢抑制・コリンエステラーゼ阻害を除いてこれらの症状はアトロピンによって逆転される(Lekeux et al. 1986)。
ラットにDDVP を吸入させると、横隔膜や横隔神経に悪影響を起こし、肺炎や気管支上皮に対する障害も起こる(Ati ? et al. 2002)。
米国のアイオワ州とノースキャロライナ州の89,000 人の免許がある農薬使用者とその配偶者について1993-1997 年に行われた疫学研究で、DDVP やクロルピリホス、マラチオンなどが、喘鳴と関係すると報告されている(Hoppin et al. 2006)。
Valcin et al. (2007)は喫煙しない農場女性21,541 人で慢性気管支炎の農業にかかわるリスク因子を調べた。

慢性気管支炎と関係する農薬はDDVP やDDT、シアナジン、パラコート、臭化メチルであった。

この他に穀物やほこりへの被ばくも関連していた。
DDVP などの農薬使用が鼻炎と関係すると報告されている(Slager et al. 2010)。


9.循環器への影響
ペントバルビタールで麻酔した雄ラットにDDVP(30、50、70、90 mg/kg)を投与すると、心電図の異常と心拍数減少・心停止を起こす。

心臓への毒性はコリンエステラーゼ阻害によりアセチルコリンが蓄積した影響と思われる(Naidu et al. 1987)。
ラットに致死量より少ないDDVP を投与すると、心臓の洞房結節や房室結節、ヒス束*に壊死が生じる(Parveen and Kumar 2001)。
*洞房結節、房室結節、ヒス束:心臓の刺激伝導系で、心臓の運動を制御する

10.血液への影響
ラットに急性中毒量のDDVP を投与すると、ヘモグロビンとヘマトクリット値が増加し、平均赤血球ヘモグロビン濃度の増加が見られた。

これらの増加は低酸素後の赤血球形成の増加によると思われる。

臨床症状を呈さない量を投与した場合、これらの影響は減少した。

また赤血球大小不同症や変形赤血球症・多染性を伴っており、赤血球形成の障害を思わせる。

これらの結果は、長期被ばくをする人で予防的に血液学的調査を考慮すべきことを示している(Ellinger et al.1985)。


11.消化器への影響
ラットにDDVP を投与すると、胃の塩酸分泌の増加とアセチルコリンエステラーゼ活性の低下、ヒスチジン脱炭酸酵素の活性増加が見られた(MaSlinska et al. 1979)。

このような影響による消化性潰瘍の発症や憎悪dが懸念される。

DDVP の重度中毒では胃腸が影響を受けることが知られている。Tashew (1988)はこのような症例を報告している。

最初の患者は急性胃潰瘍と穿孔を起こし、腹膜炎が起き、3 日目に亡くなった。

第二の患者では十二指腸球部に潰瘍が2 つ発生し、出血が見られた。

手術は成功したが、閉塞性イレウスのために再開腹が必要であった。

この患者は80 日後に退院した。有機リン剤急性中毒によるこのような重度の胃腸の合併症の可能性は指摘されている(Tashew 1988)。
膵炎は有機リンの重度合併症であある。Brahmi et al. (2005)はメソミル中毒とDDVP 中毒に伴って起こる急性膵炎発症を報告している。

Harputluo et al. (2007)は有機リンによる急性膵炎の後に膵偽嚢胞*を発症した例を報告している。

患者はDDVP を飲んだ後にコリン作動性症状が現れ、入院した。

この患者の血清アミラーゼとリパーゼのレベルは高く、膵臓は肥大していた。

有機リンによる急性膵炎と診断され、4 週間後超音波診断やCT により6 cm 大の膵偽嚢胞が判明し、大きさはその後小さくなった。

DDVP 中毒により壊死性の膵炎を発症した例も報告されている(Roeyen et al. 2008)。
*膵偽嚢胞:急性膵炎後に、膵臓の酵素や膵液、変性した組織などが集まってできた嚢胞に似た構造