・突然変異影響
● トリクロルフォンまたはその変性産物が、細菌とほ乳類細胞で突然変異をおこすことを、研究が示している[1]。
● この殺虫剤は、耐えることのできる最も多量を、または少ない量を繰り返して投与した時、マウスで突然変異を起こす[1]。
発癌(はつがん)影響
● 37.5-75 mg/kg/日のトリクロルフォン経口投与により、ラットで腫瘍が発生することが知られている[1]。
● 186 mg/kgを経口投与、あるいは186 mg/kg/日を6週間筋肉注射したラットで、発癌影響が見られている[1]。
● トリクロルフォンをラットに経口、あるいは皮下に投与した場合、「乳頭腫(にゅうとうしゅ)」と呼ばれる良性腫瘍が、前胃上皮に発達した。
6か月間生存したラットには様々な程度の肝臓障害があった[1]。
●マウスにトリクロルフォンを経口、腹腔、経皮投与した場合、発癌性の証拠は認められなかった[1]。
器官毒性
● トリクロルフォンは、コリンエステラーゼ及び適切な神経機能を果たすために必要な酵素を阻害することによって、主に神経系に影響する。
それ以外の標的器官に、肝臓や肺・骨髄(造血器)がある。
● 有機燐剤トリクロルホンやジクロルボス・ジメトエート・ソマン・トリオーソクレシルホスフェートなどをテンジクネズミの妊娠42-46日にに投与し、子供が産まれたときに脳重量を調べた。
脳重量が大きく減少したのはトリクロルフォンとジクロルボスであり、他の投与では起こらなかった。
重量の減少は脳の部位である小脳・延髄・視床と視床下部・四丘体で起こった。
大脳皮質と海馬では影響は少なかった。強力な抗コリンエステラーゼ剤であるソマン(毒ガス)やニューロパチー標的エステラーゼneuropathy target esteraseの強力な阻害剤であるTOCPでは何らの影響も生じないことから、これらの機構とは関連がない。
障害発生にDNAのアルキル化が関連していることが示される[8]
● トリクロルホンは神経線維の発達を阻害すると思われる。
培養液から血清をなくすと分化が誘導される培養した神経芽細胞を用いて、軸索(神経細胞の突起)の成長に対するトリクロルホンの影響を調べた。
トリクロルホンは1および2μg/mlの濃度で軸索様突起の成長を抑制することが発見された。
このことはニューロフィラメントの高分子量蛋白サブユニットの減少と関連していた[4]。
人間と動物での運命
● トリクロルフォンの吸収と分布・排泄は急速である。
マウスに経口投与された量の約70-80%は、投与後最初の12時間に排泄される[1]。
同じように急速な除去は腹腔注射後、ブタで見られている[1]。
● 想定されるトリクロルフォンの代謝物(DDVP)は、被ばくしたウシの体組織で認められている。
この殺虫剤を[ウシに]「注いで」使用した後に、トリクロルフォンが牛乳から検出された[1]。
生態影響
鳥類に対する影響
● トリクロルフォンは鳥類に対して、中~高度の毒性がある。鳥類の中毒兆候には次のものがある。
おう吐・アンバランス・ふるえ・緩慢・動きの低下・羽をふるわす痙攣(けいれん)。中毒の兆候は被曝後10分という早さで現れ、通常、投与後30分~3時間内に死亡する[1]。
処理した餌を5日間与え、次いで未処理の餌を3日間与えた、生後2週間のウズラで、餌中トリクロルフォンの推定LC50[動物の半分が死ぬ濃度]は、約1800 ppmであった[1]。
卵に100 ppmのトリクロルフォン(アセトンに溶かして)を注射したとき、約77%のニワトリの胚(はい)が死んだ[1]。
● トリクロルフォンの急性経口LD50は、マガモで36.8 mg/kg、コリンウズラで22.4 mg/kg、カリフォルニアウズラで59.3 mg/kg、雄のキジで95.9 mg/kg、カワラバトで23 mg/kgであった[1]。