・慢性毒性
● 有機燐に対するくり返しあるいは長期被ばくは、急性被ばくと同じ影響を招くだろう。
くり返し被ばくした労働者で報告されたその他の影響には、記憶と集中の障害や方向感覚喪失、重度の抑うつ、易興奮性、錯乱、頭痛、会話困難、反応時間の遅れ、悪夢、夢遊病、嗜眠あるいは不眠がある。
頭痛と吐き気、食欲喪失、けん怠を伴うインフルエンザ様症状も報告されている [2]。
● 21日間18 mg (0.26 mg/kg/日)のジメトエートを飲んだ成人男性でコリンエステラーゼ阻害はなかった。
有毒な影響とコリンエステラーゼ阻害は、4週間2.5 mg/日 (約0.04 mg/kg/日)を飲んだ人で観察されなかった。
5、15、30、45、60 mg/kg/日を57日間経口投与された人間の研究で、コリンエステラーゼ阻害は30 mg/kg以上のグループでのみ観察された [2]。
器官毒性
● 神経系への影響
○ ジメトエート中毒9日後に死亡した患者では異常な中枢神経障害が見られた。病理学所見はウエルニッケ脳症に類似し、重度の脳室*壁の出血性壊死が見られた。
報告者によると、脳内アセチルコリンレベルの上昇がウエルニッケ脳症チアミン欠乏を招いたという [1]。
○ ジメトエートと重金属の鉛は、神経系に対する影響を強めあうことが知られている。
妊娠5-15日及び授乳2-28日の間親ラットに、あるいは妊娠5-28日及び授乳2-28日の親ラットと離乳後8週間子ラットに、鉛 (80.0 又は320.0 mg/kg)、ジメトエート(7.0 又は 28.0 mg/kg)、又はその組合せを投与した。子ラットの電気生理学的検査を12週令で行った。
この結果、皮質脳波の有意な平均振幅の減少と頻度の増加、体制感覚や視覚・聴覚誘発電位の潜時と持続期間の延長がみられ、鉛やジメトエートを別々に投与した群より、両方を投与した群でより顕著であった。
この結果は出生前後に鉛とジメトエートのような神経毒物に被ばくすると、中枢神経系の機能を大きく変えることを示している [8]。
○ 行動への影響:ジメトエートは動物の行動に障害を与える。
ジメトエートの行動とコリンエステラーゼへの影響をモリアカネズミで調べた実験では、投与短時間後、活発さが低下し、毛づくろいや立ち上がり、臭いかぎの減少が特徴であった薬量依存性の行動抑制があった。
行動障害は投与6時間後に完全に消失した。
高い2つの投与量で、常動的で脅迫的な毛づくろいが投与30分後に見られた。
ジメトエート被ばく後脳と血清中の薬量依存性のChE活性低下が見られた。行動障害は65-75%(脳)と75-85%(血清)のChE阻害と最大レベルと関連していた。
ChE活性の回復は行動障害の回復より遅れ、投与後3-6時間後に始まった [9]。
○ 学習への影響:24.75 又は 49.5 mg/kg (LD50の1/10又は1/5th)のジメトエートを投与すると、学習と記憶保持に障害が現れる [12]。
○ 多世代投与の影響:多世代に渡ってジメトエートを投与し、神経系や行動への影響を調べた研究がある。ラットに 7.0, 10.5, 14.0, 28.0 mg/kg (LD50の1/100、1/75、1/50、1/25)のジメトエートを妊娠中と授乳中、成熟時期を通じ、三世代に渡って投与し、脳波の変化を追跡した研究がある。脳波の測定は12-13週例に行った。
投与したラットの全般的な脳は活動は対照より大きくなった。
平均周波数は高くなり、振幅は減少した。これらの影響は第三世代で最も顕著になった [10]。
同様にラットにジメトエートを三世代投与して体性感覚や視覚、聴覚によって誘発される電位を調べた研究があるが、この場合、世代間でジメトエートの影響に差はなかった [11]。