神経障害標的エステラーゼ (神経毒エステラーゼ) | 化学物質過敏症 runのブログ

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・神経障害標的エステラーゼ (神経毒エステラーゼ)


神経毒標的エステラーゼの少ないマウスは、有機リンに敏感に反応し、多動性障害の特徴を示す
湾岸戦争後に、湾岸戦争症候群とよばれる、疲労や関節痛・筋肉痛から生殖障害・神経障害などの広い範囲にわたる障害を帰還兵が訴えているのは有名である。

原因は劣化ウラン弾や油井火災による大気汚染などが指摘されているが、ペルメトリンや昆虫忌避剤ディート(DEET)などの農薬・有機リン剤・毒ガスも原因とされ、ペルメトリンとDEET・ストレスの組み合わせで生殖障害が起こることも最近実験動物で指摘された。
 
農薬や毒ガスの長期的影響として、遅発性神経障害が有名である。毒ガスや有機リン剤の一部は遅発性の神経障害を起こすことが知られている。これを有機リン誘導遅発(遅延)性神経毒性という。

急性中毒はアセチルコリンエステラーゼを阻害することによって起こるが、遅発性神経障害は、有機リン急性中毒の1-2週間後に現れる四肢の脱力と運動失調、その後の麻痺が特徴である。

病理学的には脊髄及び末梢神経中の長い軸索の変性がある。また脳の特定部位の変性も明らかになっている。

ニワトリに有機リン剤TOCPを投与した実験では、変性した軸索は、脊髄と延髄・小脳に見られており、変性が見られる時期は投与後1-3週間であり、変性の出現時期は臨床症状の発現時期と一致するという。[Tanaka, Bursian, 1989]
 
有機リン誘導遅発性神経毒性は、神経毒エステラーゼ又は神経障害標的エステラーゼと呼ばれる酵素活性によるものであると、長い間信じられてきた。

今までの説によると、遅発性神経毒性は、標的エステラーゼのセリン残基が有機リンによるリン酸化で阻害を受け、酵素活性が70-90%阻害された時に、酵素は更に修飾を受けて有毒な「老化」した酵素に変化し、この活性が遅発性神経障害を起こすと考えられてきた。

しかし、2003年 3月の報告では、この酵素の減少あるいは阻害が異常を引き起こすことが分かった。
 
一般に遺伝子は一対ある。米国のサーク研究所のウィンローらは、遺伝子工学的方法を用いて、活性を持たない神経毒エステラーゼをコードする遺伝子を持つマウスを作った。

活性のある(正常な)神経毒エステラーゼの遺伝子を全く持たないマウスは妊娠8日目までしか生存できず、この酵素は胎児の生存に必須であることも判明した。[Winrow et al. 2003] 

正常な神経毒エステラーゼ遺伝子と不活性な神経毒エステラーゼ遺伝子を持つマウス(以下ヘテロのマウス)は、生存・繁殖が可能であった。

ヘテロのマウスのアセチルコリンエステラーゼ活性は正常なマウスと同じであったが、神経毒エステラーゼ活性のレベルは低かった。[Winrow et al. 2003]