・英国のマンチェスター大学産業環境保健センターのチェリー博士らのグループは、羊を浸す液に被ばくしたことが、病気の一因であるかどうか調べた。(3)
牧羊者で病気の人と健康な人とで、パラオクソナーゼの遺伝型と、パラオクソナーゼが浸し液の成分である有機燐剤ダイアジノンの活性体ダイアジノンオクソンを分解する活性を調べた 。
この酵素タンパク質には多形性があり、変位があるところは192番目のアミノ酸(グルタミンからアルギニンへ)と55番目のアミノ酸(ロイシンからメチオニン)である。彼らはパラオクソナーゼの遺伝型を全参加者で測定し、ダイアジノンオクソンを加水分解する活性は379人で測定した(下表を参照)。
体細胞の遺伝子は父親からのものと、母親からのものの2組がある。
そのためパラオクソナーゼのアミノ酸のコードも2つある。
以後の表現でアルギニン/アルギニンと書いた場合、その両方ともアルギニンであること、アルギニン/ロイシンと書いた場合、片方がアルギニンで他方がロイシンであることを意味する。
192番目のアミノ酸の遺伝子型がアルギニン/アルギニンであった人の全ては、55番目のアミノ酸の遺伝子型がロイシン/ロイシンであった。
症例は192番目がグルタミン/グルタミンであった人では少なく、症例で69人(39%)、対照は140人(60%)であった。
また55番目がロイシン/ロイシンであるのは症例に多く、症例で86人(49%)で、対照は74人(32%)であった。
192番目がアルギニンであった頻度は症例で35%、対照では23%であった。55番目のロイシンを持つ人は症例で71%、対照で58%であった。
このことは、パラオクソナーゼ遺伝子が、192番のアミノ酸がアルギニンである場合と、55番目のアミノ酸がロイシンである場合に、過敏症患者が多いことを意味している。
パラオクソナーゼの変位した種類は基質(この場合は有機燐剤をいう)によって、その働きに差がある。
彼女らはダイアジノンオクソンを加水分解する活性を調べた。
ダイアジノンオクソンの加水分解は、患者では中央値以下が58%であり、対照では44%であった。
このことは患者で加水分解能力が低いことを示している。加水分解速度は192番のアミノ酸の種類と関係があり、中央値以下の人がグルタミン/グルタミンでは36%、グルタミン/アルギニンで61%、アルギニン/アルギニンで85%であった。
55番目のアミノ酸変異との関連は少ない。このことは有機燐分解酵素の活性は192番目のアミノ酸がアルギニンに変化している場合に活性が低くなることを示している。