・Q4 国内におけるBPAのリスク評価の現状について教えてください。
BPAについては、上述のように近年、低い用量の曝露(低用量曝露といいま
す。)により、動物の胎児や児動物に影響が認められたことが報告され、米国やEU等においてリスク評価が進められていること等を背景に、2008(平成20)年7月に厚生労働省から評価要請を受けました。
BPAの健康影響を特徴づける主な影響は内分泌系及び生殖系への影響であるとされていることから、食品安全委員会の器具・容器包装専門調査会に設置された生殖発生毒性等に関するワーキンググループ(WG)において、今回の評価要請のきっかけとなった厚生労働科学研究の報告書を含む低用量曝露による生殖発生等に対する影響を示唆する国内外の知見の評価を中心に、BPAに関する食品健康影響評価のための調査審議を行ってきました。
現在までに計9回のWGを開催し、これまでに得られている知見から、WGにおける現時点でのBPAに関する健康影響について、中間取りまとめを2010(平成22)年5月にまとめ、同年7月に器具・容器包装専門調査会へ報告され、審議・了承されました。
低用量曝露における影響を正確に評価するためには、その影響が投与した低用量のBPAそのものによるものか、それともポリカーボネート製の飼育器具など試験環境に由来するBPA曝露によるものか、飼料等に由来するBPA以外の物質によるものかについて明確にする必要があるなど、低用量曝露特有の評価上の困難さがあります。
このため、WGでは、まず、「BPAに関する選択した文献を評価する際の留意点」について検討し、その中で「動物実験における一般的留意点」、「主に低用量の試験を評価する上での留意点」、「リスク評価を行う上での留意点」の3つを策定し、どのような点に注意して評価すべきかについて考え方を取りまとめました。
これに基づき、BPAの低用量曝露による影響をどのように結論付けられるのかについて、特に、厚生労働科学研究の報告書については、評価を行うために必要な追加資料の提出を厚生労働省に依頼し、提出された補足資料を含めて詳細に検討をするなど、これまでに得られている知見の内容と試験環境等との関係などに関し、詳細に検討を行ってきました。
その結果、「ヒトがBPAに曝露されて生殖発生や発達に悪影響が及んだと
いう直接的な証拠はないが、実験動物におけるBPAの低用量曝露による影響については、生殖発生、神経発達、免疫系に及ぼす影響を示唆する知見が多数報告されている。
これらは、生体における適応の範囲に属する影響から、毒性影響とみなすべき影響まで広範にわたっている。
しかし、用量反応関係についての知見が不十分であること及び試験結果の再現性が十分に担保できないことに留意する必要がある。
現時点における知見を鑑みると、最近海外の政府機関で採用されているNOAEL 5 mg/kg体重/日より低い用量のBPA曝露によって、実験動物を用いた試験系で軽微な影響が顕れる可能性に注視する必要がある。」とされました。
器具・容器包装専門調査会において了承された中間取りまとめについて
は、今後、国際機関におけるBPAの評価に関する議論等に用いられるように、海外に対して情報発信していくこととされました。
今後、積極的な情報収集及び食品安全委員会が行っている食品健康影響評価技術研究等により評価に用いることが可能な新たな知見を得た後、器具・容器包装専門調査会における調査審議の上、可能な限り速やかに食品安全委員会として、BPAについての最終的な食品健康影響評価を取りまとめていくこととしています。
なお、本年は、国際連合食料農業機関(FAO)及び世界保健機関(WHO)に
よるBPAの安全性評価のための専門家会合が開催される予定であることなどから、それらの国際的な評価の動向についても引き続き注視し情報収集に努めていくこととしています。
WGにおける審議内容、議事録等については、以下のURLをご参照下さい。
http://www.fsc.go.jp/senmon/kiguyouki/index.html