クリーンエア 2007年6月号(Vol.5 No.2) | 化学物質過敏症 runのブログ

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・国立病院機構盛岡病院化学物質過敏症外来便り
2007年6月号(Vol.5 No.2)
当院での化学物質過敏症の診断の取り組み
2002年12月に当院で化学物質過敏症外来を開設してから4年半が経過しましたが、この間に外来を受診された患者さんは130名を超えました。

岩手県内だけでなく、東北全県、関東、遠い所では四国からも来られました。
化学物質過敏症の病態定義、診断については、いまだ十分に確立されたものはなく、私たちは北里研究所の石川哲先生の提唱されている診断基準や米国の化学物質過敏症1999年合意事項、Miller先生の化学物質過敏症の問診票QEESI(Quick Environmental Exposure Sensitivity Inventory)を駆使して初診時の第一診断をしています。
QEESIについては、初診時に住宅環境や職場環境などの問診項目とともに、化学物質不耐性スコア、症状スコア、マスキングスコア、日常生活障害スコアを記入していただくもので、実際に問診に記入された方も多いことと思います。

1999年の米国の合意事項は

①微量の化学物質の暴露に反応する。

②原因物質の除去で改善、治癒が見られる。

③反応に再現性がある。

④慢性の疾患である。

⑤関連性の見られない多種類の化学物質に反応する。

⑥症状が多臓器に見られる。

となっています。

これらでMCSの可能性が高いと診断されると、さらに詳しい診断を行い、治療方針を決めていきます。

治療については、新築やリフォームその他明らかに化学物質暴露がきっかけと考えられる場合には、速やかにそれらの暴露から回避するための環境整備や換気改善、活性炭マスク装着などの指導を行いながら、診断を進めていくことになります。
どのような病気にも言えることですが、診断に際しては科学的根拠に基づき客観性に優れ、かつ患者さんにできるだけ苦痛が少なく安全に施行できるようにすることが重要で、私たちもそのための努力をしています。

化学物質過敏症では、高血圧や糖尿病などのように、簡単に血圧を測定することや、血液や尿検査で診断がつくような検査項目がなく、化学物質過敏症の外来を担当している医師は苦労しているところです。

それでも最近では、いくつかの検査の診断的な有用性があることがわかってきましたので、簡単にご紹介します。

1.静脈血酸素分圧
石川先生の診断基準の項目の中には眼科専門医でないとできないいくつかの神経眼科的検査が含まれているので、この静脈血酸素分圧は、通常の医療機関で可能な検査で唯一化学物質過敏症で異常が見られる検査です。
ただ一般的には動脈血の酸素分圧は測定しますが、静脈血を測定することはありませんので、正常値についても知られていません。

しかし、当院も含めいくつかの化学物質過敏症を扱っている施設で調べたところ、正常値は25Torr以下で多くは10-20Torrですが、化学物質過敏症では35Torr以上の方が多いことがわかってきました。

当院で調べた方の中には80Torrまで高くなっている方もいました。

なんと動脈血の酸素分圧と同等のレベルです。

実は静脈血の酸素分圧が高くなる理由は十分には解明されていません。いまのところ化学物質過敏症の方は、末梢組織での酸素の利用が何らかの機序で障害されていると考えられています。

静脈血酸素分圧は症状が改善すると正常になる例もみられますが、逆に正常だからといって化学物質過敏症ではないということにはなりませんので、総合的な判断が必要ではあります。

2.咳感受性試験(カプサイシン負荷試験)
この検査はもともと咳が長引いている方の診断として行われているものです。

カプサイシンとは唐辛子を純化したもので、これを希釈した液を非常に低濃度より吸入していただき、どの濃度で咳がでるかを検査するものです。

化学物質過敏症の方の中に、化学物質暴露により咳がひどくなる方がおられるので、検査してみたところ、非常に低濃度で反応する方が多いことがわかってきました。

そこで特に咳がひどくない化学物質過敏症の方にも検査してみたところ、やはり咳感受性が明らかに亢進している方が多く見られます。

その原因として今考えられていることは、カプサイシンは気管支にある自律神経の線維(C-fiber)を刺激する物質ですが、化学物質過敏症では化学物質が低濃度でC-fiberを刺激して咳がでやすい状態になっているのではないかということです。検査自体は10分以内に終わりますし、たとえ咳がひどく出ても数分もすればおさまってくる安全な検査です。

3.NIRO-200(近赤外線酸素モニター)
前額部にプローブを貼り付けて、WHO基準より少し高い程度の化学物質を吸入していただいて、脳血流の変化をリアルタイムでみる検査です。

健常者は化学物質吸入でも脳血流の変化は僅かですが、化学物質過敏症の方では血流量の変動が大きくなるといわれています。

ただこの検査も十分に確立したものではありません。当院でも検査可能ですが、この検査で確定的な診断を下すことは現時点ではできません。

化学物質過敏症の方だけでなく、化学物質過敏症でない方も含め被検者になっていただき、さらにデータの積み重ねが必要です。
以上、まだまだ課題はたくさんありますが、より安全かつ簡便で、客観性の高い検査方法を確立していきたいと考えています。

そのためにはみなさまのご協力が必須です。今後ともよろしくお願い致します。
脚注:
マスキングスコア
タバコやアルコール、その他化学物質を扱うなど普段から曝露がある場合に症状が隠されて(偽装されて)しまうことがあるので、その影響がどれ位あるのかをマスキングスコアとして表します。


runより:実は私はカプサイシンに反応しません。

化学物質過敏症のややこしいところですね。