・ⅰ)腕に分布する神経
脊髄から神経根がムカデの足のように枝分かれしています。
神経根から先では一本ずつの神経に枝分かれします。
頚髄からは上腕神経叢(じょうわんしんけいそう)という神経の束が腕に神経を分布しています。
上腕神経叢は斜角筋という筋肉の間を通って、鎖骨と第一肋骨の間からワキの下へとつながり、やがて腕から手先に分布する末梢神経に連なります。
女性のなで肩の人は第一肋骨が水平ではなく斜めになっていることが多く、鎖骨との隙間が狭くなっています。
このため腕から手先を栄養している血管とともに上腕神経叢も圧迫されやすくなります。
これを「胸郭出口症候群」といいますが、腕や手の指の先がしびれたり、重だるく冷たく感じたり、腕を高く保つとよけいにこれらの症状が悪化しやすくなります。
胸郭出口症候群では肩こりも起こりやすくなります。
(イラスト10)
ⅱ)肩と背中に分布する神経
(イラスト10)肩こりは頚椎を左右から支えている僧帽筋や肩甲挙筋、菱形筋、棘上筋、棘下筋などがこわばって固くなったときに起こる不快感です。肩こりでは多くの場合、背中と肩(棘下筋部、菱形筋部、僧帽筋部)を押さえると痛みを感じる部分(圧痛点)を認めます。
これらの圧痛点は頚椎から出た脊髄神経の通り道にあたっています(肩甲上・下・背神経)。神経が浅いところを走っているために圧迫を受けやすくなるわけです。東洋医学でいう「ツボ」に相当する部分です。
これら背部の筋肉のこりが強いとき、神経の圧迫と腕の重さで上腕神経叢が牽引されるなどの理由により、腕や手先のしびれ感を生じたり、歩行時やまた姿勢によって背部に耐え難い痛みを生じることがあります。
このような神経根症状や末梢神経の刺激症状は頚椎の変化とは無関係に起こることがあります。
急にゴルフの素振りや運動をして背部の筋肉を強く痛めたときに起こってくるのがその例です。(筋・筋膜の障害)。
頚椎レントゲンや頚椎MRIで異常が認められないにもかかわらず、強い神経根症状が起こることが経験されます(筆者の経験より)。
はじめから神経根症状を起こすような頚椎の変形などの原因が隠れている可能性も大ですが、背部筋群の障害を引き金にして、肩甲(上・下・背)神経の圧迫・刺激→反射的な背部筋肉群の一層の緊張→神経根の刺激といった原因もあるのではないかと推測されます。
ⅲ)後頭部に分布する神経
第一頚椎と第二頚椎の間からから出て後頭部に分布する大後頭神経が圧迫されたり、頚部に広く分布している自律神経(後述)が刺激されると後頭部痛(大後頭神経痛)を生じます。
後頭部に電気が走るような痛みを感じたり、髪の毛をさわるとビリビリするのは大後頭神経の刺激症状です。
後頭部痛のほかに、首筋の痛みや肩こり、さらには自律神経の刺激の結果、めまいや不安感、頭重感など多彩な不定愁訴を合併することがあります。