・メキシコの4才~6才児を調べた最近の研究では、農薬に被曝した子どもで知的能力の低下と攻撃行動の増加が知られています。
エリザベス A ギレットらは、メキシコの北部ソノラにあるヤクイ峡谷に住む、ヤクイインデアンの子ども2グループを調べました。
1グループの子どもは農薬を多用する農業(年間45回以上散布)が行われている低地に住んでおり、もう一つのグループは、親が農薬を使わず牧場で生活している、山裾の高地に住むグループです。
農薬に被曝した子どもたちは、どのくらい長い間飛び上がったり降りたりし続けるかを調べる試験で、肉体的持久力がはるかに低く、手・眼の運動の統合が劣っており、高地に住む子どもが容易にできるのに人間の簡単な絵を書けませんでした。
特に、ギレットの研究で注目すべきことは、農薬に被曝した子どもの行動の次の記述です。
「一部の峡谷の子どもたちは、通り過ぎる時仲間を殴ったり、親の細かな注意に不愉快になったり、怒り出したりすることが見られた。
この攻撃行動は[農薬のない]山裾の[子ども]では見られていない」。
鉛と暴力犯罪との関連やエリックソンの「幼いマウスに汚染物質・神経毒物を投与すると、大きくなってから同じような毒物に過敏になり、異常行動や学習障害を起こす」という報告、この章で述べた動物実験とメキシコの疫学研究で見られた農薬被曝と攻撃行動の関連は現在の子どもや親の状態を説明しているように思えます。
現在の社会でしばしば見られる子どもたちの「切れ」やすさ、多くの学習や作業をしたとも見えないのに「疲れた」を連発する子どもたち、国内外での少年の暴力犯罪を考えたとき、化学物質被曝と行動異常や学習障害の関連も考えるべき時に来ていることを示しているのではないかと思います。
最近は行動障害が問題になっているが、2010年にBouchard et al. (2010)は尿中の有機リン代謝物濃度が高い場合、注意欠陥多動性障害である可能性が高くなるという疫学研究結果を報告した。
これに対してEPAは、米国では有機リン再登録過程を通じて有機リンを禁止や制限をしており、この問題はクリアできるという内容の声明を出している。
今までは、テレビやビデオ・映画の悪質な描写や商品の氾濫・テレビゲーム・親や学校のしつけの問題として少年非行がとらえられてきました。
それは全く無関係ではないでしょうが、子どもの切れやすさや学習障害を起こしやすくしている物質的基盤があるのかも知れません。
それを親や社会の対応あるいは責任としてすましてよいのでしょうか。
農業用化学物質や人工肥料・溶剤、そして別に述べる重金属、残留性汚染物質などが肉体のみではなく、精神まで荒廃させてきている可能性があります。