生体異物を排出する能力阻害
生体には細胞内から体外異物を排出する能力がある。
この機能を阻害すると生体異物が細胞内に蓄積し、有毒な影響を強める。
この作用は抗がん剤に耐性を示す癌細胞の仕組みを解明する試みから明らかになった。
*合成ムスクは細胞が外から入った異物を排出するメカニズムを妨害し、細胞内の毒物濃度を高める
一部の農薬や合成ムスクは体外の異物を排出する能力の阻害作用が極度に強く、環境中の濃度で阻害することが知られている(Smital et al. 2004)。
なおこれらの研究はこの影響に敏感に反応するイガイの鰓を用いて行われた。
ニトロムスク化合物ムスクケトンとムスクキシレン、多環式ムスク化合物ガラキキソライドとセレストライド、テトラライド、トランセオリドと多種外来物耐性トランスポーターとの関連をカリフォルニアイガイで調べた。
試験したムスクは輸送活性の阻害を低濃度で示した。
この阻害程度はquinidine とほぼ同じで、verapamil より約100 倍高い。この阻害は水生生物細胞内に有毒な多種外来異物抵抗性基質の蓄積を招く(Smital et al. 2004,Luckenbach et al. 2006)。
この現象は植物でも認められる。低濃度のトナライドはコムギが土壌中カドミウムの取り込みを招く。
その他コムギにクロロフィル合成阻害などの影響を及ぼす(Chen et al. 2010)。
香料の残留・汚染
合成ムスクは幅広いパーソナルケア製品や家庭用製品に添加されている。
合成ムスクは分解されにくく、処理された排水中に存在する。
ドイツの一般的な下水処理場では、入ってくる合成ムスクであるガラクソライドやトナライドの約35%が変化せずに工場から排水中に排出されるという。
また、両物質はが水中から減少するのは、分解によるも汚泥に吸着されることによると報告されている(Bester 2004)。
*合成ムスクは分解されにくく、下水処理場からの排水や河川や湖沼、海、空気から検出され、生物濃縮が起こり、感受性が強い未熟児や幼児、病人への影響が懸念される
また米国でもムスクが測定されており、前述の結果と類似した報告がある。
北米で多環ムスク(トナライド、ガラクソライド、トラセオライド、セレストライド、ファントライド、DPMI) とニトロムスク(ムスクキシレン、ムスクケトン)を測定した研究がある。
ミシガン湖の空気と水などを調べた。
DPMI 以外の全てが検出され、ガラクソライドとトナライドは最も高い濃度で検出された。
水中のムスク類の発生源は排水処理施設であった。
ムスクが消失するメカニズムは蒸発と流出であった(Peck et al. 2004)。
米国環境保護庁の研究者は自治体の廃水処理施設からの排水や河川などの水及びコイで合成ムスクを分析した。
この結果は多環ムスク及びニトロムスクが下水や、湖水、コイなどに存在することを示した(Osemwengie and Gerstenberger 2004, Luckenbach et al. 2005)。
これらはムスクケトンやムスクキシレン、ガラクソライド、セレストライド、テトラライド、トランセオライドなどであった(Osemwengieand.Gerstenberger 2004)。
韓国の河川で内分泌かく乱物質や医薬品、パーソナルケア製品を調べた。ムスクケトンなども高頻度に検出されている(Yoon et al. 2009)。
欧州の北海から0.3-3 ng/L のガラクソライドやトナライド、ムスクケトン、ムスクキシレンなどの合成ムスクが検出されている(Andersen et al. 2007)。
Nakata (2005)は日本沿岸のサメや海棲ほ乳類で多環式ムスクを分析した。
この結果サメや海棲ほ乳類はムスクを濃縮しており、環境中で分解され難いと考えた。
Fromme et al. (2004)はベルリンのアパートや幼稚園で2000 年と2001 年に空気中のフタル酸とムスク香料の調査をした。
ムスク化合物がアパートや幼稚園で検出された。最も高濃度に検出されたのはフタル酸ジブチルであった。
許容量と比較すると少ないが、感受性の強い集団である未熟児や子ども、透析患者などでは、これ以外の経路、例えば使用する塩化ビニルチューブなどからのフタル酸の取り込みも考える必要がある。