・発癌性
香料の発癌性は系統的に調べられていない。
しかし香料として使われている合成化合物の発癌性が確認されている。
さらに一般に安全と信じられている天然物であっても発癌性があると報告されている。
*香料の発癌性は良く検討されていない。一部の香料に発癌性があり、また一部は他の化学物質の発癌性を高める
アリルケトンであるベンゾフェノンは光重合開始剤や香料として用いられる。
米国立環境衛生科学研究所NIEHS の研究者らは、ラットとマウスでベンゾフェノンの発癌性を調べた。
雄ラットで尿細管腺腫の発生と投与量とに正のトレンドが見られた。
この尿細管腺腫発生は尿細管過形成の増加を伴っていた。また雌雄のラットで単核球白血病も発生した。
マウスでは雌雄で肝細胞腺腫の有意な増加が見られた。
嗅上皮の異形性も有意な増加がマウスで見られた。
まれな組織球肉腫も雌ラットで見られた(Rhodes et al. 2007)。
以上の結果から、ベンゾフェノンに発癌性があると結論した。
同じ結果が米国毒物計画NTP からも報告されている(National Toxicology Program 2000)。
クマリンは天然に存在する重要な化合物の基本的構造である。数千種のクマリン化合物が記載されている。
クマリンと3,4-ジヒドロキシクマリンが香水や化粧品、その他の製品
に使われ、食品フレーバーとしても使われているので、これらの物質の試験がFDA などから指定された(National Toxicology Program 1993)。
2 年間経口投与研究で雄ラットに尿細管腺腫が増加した。
雌ラットでは増加はわずかであり、発癌性はあいまいであった。
雌マウスで肺胞・細気管支の腺腫と癌や、肝細胞腺腫があり、クマリンの発癌性は明らかであった。
雌雄マウスでクマリン投与に関係すると思われる前胃の扁平細胞乳頭腫がわずかに増加した(National Toxicology Program 1993)。
雄ラット2 年間経口投与試験で3,4-ジヒドロクマリンの発癌性に関する一部の証拠があった。
それは尿細管腺腫発生増加と過形成による。
また雄ラットで移行上皮細胞癌も生じた。
雌ラットでは発癌性の証拠はなかった。
雄マウスでは発癌性の証拠はなかった。
雌マウスでは肝細胞腺腫および、肝細胞腺腫と癌との合計で発癌性の証拠があった(NationalToxicology Program 1993b)。
ベンジルアルデヒドは食品や飲料、医薬品、香水、石鹸、色素製造に使われる。
2 年間経口投与試験でラットの雌雄で発癌性の証拠はなかった。
雌雄のマウス試験で、前胃の扁平細胞乳頭腫と過形成性増加による発癌性の証拠が一部あった(National ToxicologyProgram 1990)。
d-リモネンは柑橘類の果皮に含まれ、その香りを構成する物質である。d-リモネンは雄ラットに腎臓の尿細管過形成や腺腫、腺癌発生率増加を起こし、明瞭な発癌性を示す。
雌ラットや雌雄のマウスでは発癌性の証拠はなかった(National Toxicology Program 1990b)。
アリルイソバレレートは合成香料で1950 年代から次の物に使われている:石鹸、洗剤、クリーム、香水、非アルコール飲料、アイスクリーム、ゼラチンなど。
アリルイソバレレートはラットやマウスで発癌性を示し、造血器の新生物(雄ラットで単核細胞白血病、マウスでリンパ腫)を発生させた(National Toxicology Program 1983)。
ムスクケトンは化粧品に用いられているムスク臭がある典型的な合成化合物である。
ムスクケトンは広く使われ、水中や堆積物、魚などの中に見られ、人間の脂肪組織と母乳中とに存在する。
Apostolidis et al. (2002)は発癌物質の形質転換活性検出のために宿主媒介アッセイ系を開発した。
この系を用いてニトロムスク類、ムスクキシレンとムスクチベンテンの発癌性をマウスで調べた。
この結果、両方の化合物に発癌性があることが分かった。
しかし両者とも変異原性がなく、発癌メカニズムには遺伝毒性以外のメカニズムを考える必要がある(Apostolidis et al. 2002)。
これらのムスク化合物の特性に関する研究がある。
ムスクキシレンが肝臓の多数の薬物代謝酵素を誘導する事が知られている。
岩田ら(1993)はムスクキシレンのがマウス肝グルタチオンS-トランスフェラーゼ誘導特性を調べ、マウスの系統や性、および種による差があるとを報告している。
ムスクキシレンの影響にはかなりの個体差がありうることを考慮する必要がある。
ムスク類は共遺伝毒性物質であることが知られ、ムスクケトン被ばくは人間が発癌物質による害を受けやすくする(Schmeiser et al. 2001)。
このことは生体異物を排出する能力阻害に関連する可能性がある。
このことに関しては次章を参照して下さい。