6-2)低濃度ホルムアルデヒドおよびトルエン曝露によるマウス気道粘膜上皮細胞の変化と炎症細胞の動態についての形態学的検索
研究協力者 佐藤房枝、菊池 亮、欅田尚樹、嵐谷奎一(産業医科大学産業保健学部)
(1)研究目的
ホルムアルデヒドの吸入毒性については、鼻腔内呼吸上皮細胞の線毛の消失や扁平上皮化生の発生などが報告されている。
今回、マウスを用いて、低濃度ホルムアルデヒド(最大2000ppb)およびトルエン50ppm の吸入曝露が気道粘膜上皮に形態学的な変化を及ぼすかどうか、また気道粘膜に浸潤する炎症性細胞の動態を特に肥満細胞(Mast cell)の分布を中心として検討した。
さらに、OVA 感作アレルギーモデルを作成したが、これらについても吸入曝露の影響について同様に検討した。
(2)研究方法
マウスはネンブタ-ル麻酔下で失血死させ断頭し、頭部を4%パラホルムアルデヒド/0.1M燐酸緩衝液(pH7.4)で浸漬固定した。
さらにメタノ-ルで脱脂したのちにPlank-Rychlo 法により骨組織の脱灰をおこなった。
その後、頭部を4つに切り出して型どおりのパラフィン包埋をおこない、標本を作製した。
染色はHE 染色とGiemsa 染色、Toluidinblue 染色を施した。
(3)研究結果
3-1 ホルムアルデヒド曝露による上気道粘膜上皮の変化と炎症性細胞の動態
鼻腔の上皮は鼻孔から扁平上皮細胞、多列線毛円柱上皮細胞と杯細胞よりなる呼吸上皮細胞、嗅細胞へと移行する。
Point.A は鼻孔の扁平上皮から呼吸上皮に移行する部位であり、Point.B では鼻甲介・顎甲介が出現して鼻腔のほとんどが呼吸上皮で覆われていた。Point.Cは嗅上皮で覆われた種々の内側・外側甲介がみられ、それにより呼吸上皮の占める割合は半減していた。
Point.D は喉頭へと続く咽頭呼吸器部で内腔はかなり小さくなり、粘膜は再び
呼吸上皮細胞より覆われていた。
粘膜上皮細胞には4Point いずれにおいても、光顕的にOVA+・OVA-ともにホルムアルデヒド曝露0ppb と80ppb,400ppb,2000ppb 間に違いはみられなかった。
粘膜固有層では、OVA+において一部に好酸球の浸潤が観察された。
肥満細胞は組織内のいたるところに分布しており、その数を厳密に比較することは難しい。
今回は、C3H/HeN マウスの鼻孔から喉頭間の4Point において、鼻腔粘膜上皮基底膜直下に限定して肥満細胞を観察した。
肥満細胞は扁平上皮細胞下ならびに呼吸上皮細胞下に多く分布する傾向があり、嗅上皮下には少なかった。
統計的にはPoint A を除いてすべてにおいて肥満細胞数にOVA 吸入曝露の影響が推察されたが、ホルムアルデヒド吸入曝露による濃度依存的な有意差はみられなかった。
3-2 ホルムアルデヒド曝露による下気道~肺の変化と炎症細胞の動態
喉頭に続く気管・気管支の内腔上皮は多列線毛上皮であり、主として線毛細胞と杯細胞からなっている。
上皮細胞はさらに肺側の小葉気管支、終末細気管支となるにつれてしだいにクララ細胞が優位となり肺胞へと移行する。0ppb,80ppb,400ppb,2000ppb のホルムアルデヒド曝露濃度においてOVA+/C3H, OVA-/C3H のすべてのマウスに、明らかな上皮細胞の剥離や扁平上皮化生、腫瘍性変化等はみられなかった。
しかし、OVA+ではホルムアルデヒドの曝露濃度に関係なく、気管支から末梢の終末細気管支にかけて著明な杯細胞の増生がみられた。
さらに、粘膜固有層にも好酸球ほか炎症性細胞の明らかな浸潤像は観察されなかったが、OVA+では気管上皮内に分布する肥満細胞が目立った。
3-3 トルエン曝露による上気道粘膜上皮の変化と炎症性細胞の動態
鼻腔では、呼吸上皮の細胞質内にHE 染色でエオジンに好染した小体が出現する好酸性変化が、各群5 匹中、対照群の2匹、トルエン単独曝露群の2匹、OVA 単独曝露群の5匹、OVA・トルエン重複曝露群の5匹に観察された。
好酸性変化を示す部分のPAS 反応は陰性であった。
その他に、トルエン単独曝露群では鼻道の粘膜に組織学的な変化は確認されなかったが、OVA 単独曝露群とOVA・トルエン重複曝露群では、呼吸上皮の粘膜下に少数の好酸球の浸潤が確認された。
好酸球の浸潤は、OVA 単独曝露群とOVA・トルエンの重複曝露群で同程度であった。
また、OVA を曝露した2つの群において、呼吸上皮領域にPAS 反応にて陽性を示す粘液物質を含有した杯細胞が多数観察されたが、これはトルエン単独曝露群でも頻繁に出現し、かなり出現頻度は下がるものの対照群にも同様の陽性像が観察された。
これら杯細胞の過形成には、個体差があった。Toluidin blue 染色にて、
肥満細胞の上皮内への浸潤を検索したが、すべての群において、肥満細胞は上皮下組織に分布しており、扁平上皮、呼吸上皮、嗅上皮のいずれの上皮内にも肥満細胞の浸潤はなかった。
3-4 トルエン曝露による下気道~肺の変化と炎症細胞の動態
気管・肺の組織においても、トルエンの単独曝露群と対照群との間に組織学的な差はみられなかった。
OVA 単独曝露群とOVA・トルエン重複曝露群では、気管支から末梢の終末細気管支領域の上皮に著明な杯細胞の増生を認めた。
Toluidin blue 染色にて、頭部と同様に気管・気管支上皮内への肥満細胞の浸潤を検索した結果、OVA を曝露した2つの群に肥満細胞の上皮内浸潤がみられたが、トルエン曝露群ではみられなかった。
OVA単独曝露群とOVA・トルエン重複曝露群との間で、気管支の杯細胞の増生、炎症細胞の浸潤、上皮内への肥満細胞の浸潤所見に差はなかった。
(4)結論
今回の低濃度ホルムアルデヒド(最大2000ppb)およびトルエン50ppm の吸入曝露では、マウスにおいて気道粘膜上皮細胞の著明な剥離や扁平上皮化生、腫瘍変化等を生じなかった。
また明らかな炎症性細胞の浸潤もなく、肥満細胞(Mast cell)の分布にも変化はみられなかった。
さらに、OVA の吸入曝露による気道粘膜変化は観察されものの、OVA とホルムアルデヒドの両者による相乗効果は光顕的に確認されなかった。
runより:これでこの論文は終わりにします、図、写真等はカットしています。
内容も大きくカットしています、測定方法とか掲載の必要が無いと判断しました。