a-2. 眼球運動検査の記録法
測定に用いた眼球運動測定装置は、眼球からの光反射を利用した方法で、いわゆる強膜反射法によるものである。
この方法は、眼球上の角膜部分と強膜部分の色彩と明度が大きく異なる部分に非侵襲赤外光を照射し、その反射光の変化により測定をする方法である。強膜は瞳孔に比べて光の反射率が高く角膜と強膜の境界部分に赤外光を照射すると、眼球の位置の変化にしたがって照射された位置がずれ、角膜と強膜の面積の割合が変化する。
このときの反射光量の変化を、光電素子を用いて電圧に変換すれば眼球の位置の変化をアナログ的に見ることができる。
a-3. 測定法
振幅±20°周波数0.4Hz の正弦波で追従性眼球運動の測定を行った。・眼球運動測定の解析手順
眼球運動測定装置より測定された追従運動から衝動性眼球運動(サッケード)の出現の大きさを求めた。計算方法は以下の式を用いて求めた。
・サッケード値は、一周期分の振幅に対する追従出来なかった高さの合計の占める割合とした。
この計算式より、サッケード値が大きければ視標の動きに対しどの程度追従することが出来ないかを判定できる。
また測定結果は、サッケード値が25 以上の場合、追従運動を円滑に行なうことが出来ないと判定した。
b. 視覚空間周波数特性検査(MTF)
一般に視力として用いられているものは、中心視力であって本態性多種化学
物質過敏常態では異常が出にくく低下例はむしろ少ない。
そこで今回は、鋭敏な高位視覚中枢検査法である視覚空間周波数特性検査(以下 MTF)を行い異常の有無を判定した。
これは正弦波形になっている白黒の濃淡差を視覚領における識別感度(コントラスト感度と呼ぶ)を利用して他覚的に視力を評価する鋭敏な検査法であり、今回我々は、ミシガン大学視覚生理学教室で開発された方法を採用している。
CRT画面上に低~高周波数の濃淡正弦波の縞模様を示し、左右それぞれの空間周波数毎の感度測定を行い評価した。
6 )症例の要約
被験者9 名の概要をまとめて次に示す。
ただし、症例3 については、遺伝子解析の同意が得られなかった。
被験者概要
症例 年齢・性 主要発症推定原因・場所
1 24 歳男性 大学の化学研究室。アレルギー歴あり。
2 27 歳女性 化粧品会社勤務から発症
3 27 歳男性 新築ビルにおける勤務。アレルギー歴あり。
4 25 歳男性 大学の化学研究室。
5 35 歳女性 主要発症要因不明。アレルギー歴あり。(平成14 年度症例5)
6 26 歳女性 新築住居。
7 32 歳男性 組織ホルマリン固定作業。アレルギー歴あり。
8 30 歳男性 大学の化学研究室
9 37 歳男性 建材作業で発症。中毒後遺症状と本症の境界型。
アレルギー歴あり。
参考のため、昨年度のホルムアルデヒド・トルエン混合曝露負荷検査結果に
ついて概要を示す。
なお解析方法は以下の通りである。
1) 症例ごとの検討
各患者のスコアは、以下の方法で解析した。
(1) 曝露条件ごとに、曝露直前と曝露直後の自覚症状のスコアを、症状ごとに対応させた上で比較する (Wilcoxon singed-rank test)。
(以下、曝露前後比較)
(2) 全条件での曝露後の症状スコアを、症状ごとに対応させて上で、3群間比較する (Freidman test)。 (以下、3 群比較)
(3) 昨年度報告書と同様、曝露前後の自覚症状を比較した解析の結果をもとに9名の被験者を以下の4 型に分類できる。
Type 1: プラセボでは自覚症状の増強がなく、混合曝露(1 回目・2回目)のみで自覚症状増強が認められた者
Type 2: プラセボ、混合曝露(1 回目・2 回目)ともに、自覚症状増強が認められた者
Type 3: プラセボ、混合曝露(1 回目・2 回目)ともに、自覚症状増強が認められなかった者
Type 4: プラセボのみで自覚症状の増強が認められた者