・2)他覚所見
・バイタルサイン検査
脈拍数、血圧、体温、経皮的動脈酸素分圧(sPO2)の結果は、すべてガス負
荷試験に臨んで、被験者が非常に緊張していることを示していた。
すなわち負荷試験後に最高血圧の低下、脈拍数の減少、体温低下を示す傾向があった。
・瞳孔検査
暗順応を繰り返して、4 回の一過性の光刺激による瞳孔の反応を赤外線モニターで測定し、ガス負荷前後の各変数の有意差についてt検定を行った。
各種のパラメーターは、プラセボ負荷では変動が少なく、ホルムアルデヒド負荷で変動が激しかったが、40ppb 負荷と8ppb 負荷との間では、特に差が認められなかった。
負荷終了後にプラセボでも脈拍数、血圧低下を示していたことは、交感神経
緊張の解除を意味し、A1(瞳孔面積)の減少、およびCR の増大はよく一致した結果を示した。被験者の自律神経が非常に不安定であり、容易にストレッサーに反応していることは明らかにし得たと思われる。
・NIRO 検査
前頭部の血流を示す酸化ヘモグロビンを、近赤外線レーザー酸素濃度計(NearInfrared Oxygen Monitor; NIRO と略, NIRO Monitor DU 浜松ホトニクス社)で測定したが、ガス負荷によって差があるとは言いがたい結果であった。
判定の客観性を高めるための測定結果の数値化が今後必要であろう。
・呼吸機能検査
打聴診、および胸部X 線検査では器質的疾患はまったく認められなかった。
スパイロメーター測定では、何らかの呼吸機能異常を有していると考えられ
る患者はあるが、加療により呼吸機能は好転してきている。再入院検査者で異常が軽減している結果、本年度の結果は昨年度よりも異常が少ない傾向が出ていた。
Ⅳ.考察と今後の課題
本年度の研究は、平成13年度の研究を踏まえて被験者数を増やし、ごく微量の化学物質暴露による症状誘発の有無を確認するために行った。
また、平成13年度の被験者の一部について再検査を行い、再現性についても検討した。
本態性多種化学物質過敏状態と診断された者の中には、様々な状態の患者が混在し、均一な集団ではなく、今回の結果からは、ごく微量(指針値の半分以下)のホルムアルデヒドの曝露と被験者の症状誘発との間に関連はみいだせなかった。
また、自覚症状以外の所見においても、ガス曝露により著明に変化したもの
は無かった。ガス負荷試験時の悪化症状としての検査項目に挙げることは無理と思われた。
今後は、複数化学物質の混合同時負荷における検討を含め、研究の方向性をさらに検討する必要があると思われた。