・Ⅲ.結果
1)自覚症状
曝露前後の自覚症状を比較した結果をもとに、被験者を以下の4型に分類した。
曝露試験での被験者の反応による分類
Type 1:プラセボでは自覚症状の増強がなく、ホルムアルデヒド(8ppb 及び
40ppb、又は40ppb のみ)で自覚症状増強がみられた者
Type 2:プラセボ、ホルムアルデヒド(8ppb、40ppb)ともに、自覚症状増強
がみられた者
Type 3:プラセボ、ホルムアルデヒド(8ppb、40ppb)ともに、症状増強がみ
られなかった者
Type 4:その他(入院時プラセボのみ、試験時プラセボのみ又はホルムアル
デヒド8ppb のみで自覚症状増強がみられた者)
プラセボ:薬理作用の無い水や澱粉などを医薬品等の効果を評価する際の対照として用いる。
偽薬。今回はホルムアルデヒドを含まない(0ppb)ガスを用いた。
このType分類を、過去の平成12年度にも適用して、平成13年度、14年度の被
験者と合わせたものが、次の表である。
平成12年度~平成14年度の曝露試験被験者Type分類
平成12年度 平成13年度 平成14年度 計
Type 1 1 2 4 7
Type 2 0 4 1 5
Type 3 2 4 6 12
Type 4 5 5 4 14
計 8 15 15 38
すなわち、プラセボで自覚症状の増強がなくホルムアルデヒドで自覚症状増
強がみられた者は7名、プラセボ、ホルムアルデヒドともに自覚症状増強がみられた者が5名、プラセボおよびホルムアルデヒドともに自覚症状増強がみられなかった者が12名、その他、プラセボ負荷のみで自覚症状が増強している者、8ppbのみで自覚症状増強のみられた者などあわせて14名であった。
平成12年度~平成14年度の曝露試験被験者の内訳
プラセボ 8 ppb4 0ppb
(人) (人) (人)
症状増強 ↑ 10 26.30% 15 39.50% 13 34.20%
変化なし → 26 21 23
症状改善 ↓ 2 2 2
計 38 38 38
プラセボでの症状増強、8ppbでの症状増強、40ppbでの症状増強の3つをχ自乗検定を行っても(P=0.472)、またプラセボでの症状増強、40ppbでの症状増強についての比較を行っても(Fisherの直接確率法ではP=0.618、プラセボの症状増強割合を母比率とした40ppbの症状増強割合の有意確率の二項検定ではP=0.355)、有意差は無かった。
Type 1 に分類された者のみは、プラセボで自覚症状の増強がなくホルムアルデヒドにて症状が増強されていることから、ホルムアルデヒドのみに反応して
症状が増強された可能性を完全には否定出来ないが、全体としてホルムアルデヒドとの相関は見られなかった。
結果として、微量ホルムアルデヒド曝露と被験者の症状誘発との間に関連は
見いだされなかった。
平成13年度と平成14年度で類似した解析方法を実施できた4名と平成12年度と両年度ともに曝露試験を実施している1名の合計5名について、再曝露検査の結果をまとめると以下のとおりであった。
再曝露試験被験者Type分類
平成12年度 平成13年度 平成14年度
症例 1 Type 3 Type 3
症例 2 Type 4 Type 4
症例 3 Type 1 Type 4 Type 1
症例 4 Type 1 Type 1
症例 5 Type 3 Type 3
平成13年度と平成14年度で曝露検査反応型が一致したのは、5例中4例であったが、自覚症状スコアからみた場合、両年度を通してType 1の反応を示したのは1名のみであった。
両年度を通して、本態性多種化学物質過敏状態と診断された者の中には、様々な状態の患者が混在し、均一な集団ではないことがわかった。