・出典:環境省HP
http://www.env.go.jp/index.html
・別添1
環境中微量化学物質影響調査研究報告書
本態性多種化学物質過敏状態の調査研究
二重盲検法による微量化学物質曝露試験
概 要
I.目的
本態性多種化学物質過敏状態(いわゆる化学物質過敏症)については平成9年から研究班が設置された。
平成12年度に本病態と診断された被験者8名に微量ホルムアルデヒド曝露試験を行った結果、曝露試験後の自覚症状増強が不確実であり、また他覚的検査でも十分な異常所見を把握し得なかった。
そのための課題として、症例数を増やすこと、および同一患者の再負荷検査を行うことにより症状増強の再現性を得られるかどうかを確認することが掲げられた。
以降、症例数を蓄積し、化学物質から遮断された空間でプラセボ(0ppb)、極微量の8ppbおよび40ppbホルムアルデヒド曝露試験を二重盲検法により実施してきた。
平成13年度に実施した二重盲検法での調査研究を踏まえ、さらに症例数を増やして、二重盲検法により微量化学物質を負荷し、本病態が化学物質により誘発されるか否かを検証することを目的とした。
本年度も負荷物質は40ppb、8ppb、プラセボ負荷であり、負荷前後の自覚症状、バイタルサイン、呼吸機能検査、神経眼科的検査、近赤外線酸素モニターを利用した前頭部の酸化ヘモグロビンの変動、呼吸機能検査、さらに今回は新たに心療内科的検査を記録した。
結果についてはできる限りこれまでの過去3年間の結果と合わせて検討する
こととした。
Ⅱ.対象と方法
本態性多種化学物質過敏状態患者に微量ガス負荷試験を化学的に清浄な空間で二重盲検法により行い、それにより引き起こされる自覚的症状および他覚的所見の変化を検討した。
1)対象
平成14年度の被験者は本態性多種化学物質過敏状態と診断された15名とした。
年齢は前年度と同様に、20歳以上、40歳までとし、あまり症状が重症でな
い者とした。
本態性多種化学物質過敏状態の診断は、北里研究所病院臨床環境医学センターに所属する医師が行い、第三者の医師により診断基準に合致しているかどうかの判定を得て選択した。
この第三者の医師は、今回も前年度と同様に呼吸器内科専門医に委任した。また、精神疾患患者を除外するために、精神科専門医の診察を受けた。すなわち、研究開始時の患者、対照の選定にあたり、精神疾患の有無についての判定を行い、精神疾患を除外した。その詳細は前年度と同様である。
すべての被験者に、本微量ガス負荷試験の目的と方法を詳しく説明し、十分
なインフォームドコンセントを得た後にガス負荷試験を行うこととした。
被験者は、負荷後の体調等によっては、任意にプログラムから離脱できることとした。
ガス負荷試験実施については事前に北里研究所病院倫理委員会の承認を得た。
2)曝露実施施設
使用施設は前回と同じく、化学的に清浄な空間の準備が可能な北里研究所病
院臨床環境医学センターとした。
3)負荷ガス条件
負荷物質はホルムアルデヒドとした。負荷濃度は下記の通りである。
低濃度(40ppb)ホルムアルデヒド
極低濃度(8ppb)ホルムアルデヒド
プラセボ*
*プラセボ:偽薬。薬理作用の無い水や澱粉などを医薬品等の効果を評価する際の対照として用いる。今回はホルムアルデヒドを含まない(0ppb)ガスを用いた。
このホルムアルデヒド設定濃度は、建築物衛生法の環境衛生管理基準80ppbの1/2および1/10の濃度である。
これらの負荷は1日1濃度とした。負荷条件は、ガス負荷室入室後5分間安静、10分間負荷、さらに5分間の観察とした。
4)検査項目
自覚症状
自覚症状の記入様式は、国内外で報告されている自覚症状を参考に25項目を選定し、曝露前後で被験者が「ない」から「最も強い」まで直線上に自由にプロットするように設定し、その症状の程度を直線上の長さからスコア化した。
全身検査
・ 脈拍数
・ 血圧
・ 体温
・ 指先の酸素飽和度
・ 瞳孔検査
・ 右前頭部の酸素飽和度
・ 呼吸機能検査
・ 心療内科診察
5)検査実施手順
化学的清浄空間を有する病室に入院する期間は、平成13年度と異なり、すべて6日間とした。
マスキング(汚染環境に馴化し、汚染物質負荷により症状が誘発されにくい状態)除去のために、入院第1日目、2日目はガス負荷検査を行わなかった。
すなわちマスキング除去期間を1日間から2日間に増やした。
またガス負荷室検査に馴れるために、2日目にガス負荷室模擬検査を行った。
ガス負荷室の汚染の影響を防ぐために、ガス濃度変更の前には必ずガス負荷室のオゾン燻蒸を行い、壁材への負荷ガスのシンク効果除去を図った。
燻蒸時間は2時間とし、燻蒸後はオゾンの消失を待つために、さらに2時間の換気時間を置くこととした。
ガス負荷は、0レベルから徐々にガス濃度を上げ、7~8分後に設定濃度に
到達する。
徐々にガス濃度を上げるために、この濃度では入室者がガス臭を感じることはない。
負荷物質の順序は第三者の立会い医師による阿弥陀クジにより決定した。
このガス負荷試験では、被験者、および診療および検査を行う医師にはまったくガス濃度は知らされず、立会い医師のみがクジの内容を知り、ガス負荷を操作した。
自覚症状の検査は自記式の症状票によって行った。
記入様式は、国内外で報告されている自覚症状を参考に25項目を選定し、曝露前後で被験者が「ない」から「最も強い」まで直線上に自由にプロットするように設定し、その症状の程度を直線の長さからスコア化した。
第1日目:マスキング除去
第2日目:マスキング除去
一般全身検査
体温 鼓膜温度を測定(テルモ耳式体温計 ミミッピH テルモ株)
血圧 座位で測定
SpO2測定(Onyx Nonin社 ミネアポリス 米国)
自覚症状票記入
胸部診察および胸部X線検査、呼吸機能検査
呼吸器内科専門医師による診断基準に該当するかの確認作業
精神科医診察
自覚症状記入票の自己記入と実際の症状の一致性と精神疾患除外の
ための確認作業
第3日目:ガス負荷
一般全身検査(脈拍、体温、血圧、SpO2)
自覚症状票記入
電子瞳孔検査
ガス負荷
ガス負荷中、右前頭部の酸素飽和度の相対的変動を測定(近赤外線酸素
モニター装置Near Infrared Oxygen Monitor; NIROによる。)
一般全身検査(脈拍、体温、血圧、SpO2)
自覚症状票記入
電子瞳孔検査
問診
病室に帰室
第4日目:ガス負荷
第3日目と同じ検査
第5日目:ガス負荷
第3・4日目と同じ検査
心療内科医により心療的側面からの診察も実施
第6日目:退院前検査
一般全身検査(脈拍、体温、血圧、SpO2検査を含む)
自覚症状票記入