・<第5回>2003.12.5(487号)
低周波磁場の基準値を超えた商品が、堂々と発売されている日本。
その基準値自体も「問題」なのですが・・・。
健康と安全を無視した、緩すぎる日本の規制「規準」値
電磁波については、1979年のワルトハイマー論文(米国)をきっかけに、まず低周波の危険性が話題になりました。
しかし1987年、世界保健機関(WHO)が、危険性を示す疫学研究を無視し、「5~50ガウス(G)の間には危険性を示唆する報告もある」が、「50G(5万ミリガウス=mG)以下であれば問題はないだろう」という趣旨の「クライテリア69」を発表し、論争になりました。
日本では1990年前後にようやく電磁波被曝が問題となってきました。
しかし、送電線建設反対運動に電磁波問題が含まれるようになると、電力会社はこぞってWHOの「5万mG以下では問題ない」をお墨付きとして大々的に利用し始めたのです。
その頃欧米では、コンピューター用ビデオ・ディスプレイ端末(VDT)を操作する女性に、流産や”奇”形児の出産が増加しているとの報告が問題になっていました。
これを受けて、1990年にスウェーデンは、「MPR‐II」というVDT規制を実施したのです。
この規制値に適合する商品はごくわずかしかなかったので、世界中のメーカーが急いで対策をとり始め、日本電子工業振興協会(JEIDA、2000年よりJEITA)も1993年、「規制値」を発表しました。
しかし、これが適用されたのは輸出用だけで、国内向けは1998年から実施という国民無視のやり方でした。
この規制は「VDTの全面50センチ」では、「5Hz(ヘルツ)~2kHz(キロヘルツ)の周波数で2.5mG以下」「2kHz~400kHzでは0.25mG以下」という内容です。
しかし、そのような規制値をつくり、実施しているはずのメーカー自身が、それを大幅に超える商品を販売しているのです。
たとえば「IHクッキング・ヒーター(電磁調理器)」は、50/100Hz、20~28kHzの周波数ともに、上面50センチの平均で約15mG、上面30センチの平均で約45mGにもなります。
日本の低周波磁場に関する規制値は「JEIDA規制」だけでしたし、独自に研究して採択したはずですから、自主規制値とはいえメーカーはこれに従うべきです。
また、電力会社の方は、2000年を過ぎても「WHOの基準値5万mGよりも低いから安全だ」と相変わらず宣伝しているのですから本当に驚いてしまいます。
高周波の笈制が問題になったのも1990年代初めからで、携帯電話の増加がきっかけです。
携帯電話と同じマイクロ波を使用する電子レンジの電力密度は、通商産業省(現経済産業省)によって前面5センチで1000μW/cm2(一平方センチの平面を通過する電力量=マイクロワット)まで許容されています。
ところが最近、総務省は電子レンジと同じ周波数をほかの商品にも使用させ始めているので、これでは私たちは電子レンジに加えて、2000μW/cm2まで被曝させられることになります。
健康に関係の深いこうした規制は、本来、厚生労働省か環境省がすべきですが、両省とも電磁波には無関係なのです。
総務省の規制値は、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が、1998年に発表したガイドラインの参考レベルより緩くなっています。このガイドラインはもともと、長期的影響が確定していないという理由で短期影響のみを考慮し、熱上昇効果以外は考えなくてもよいという大前提で作られており、たとえば携帯タワーでは、600~1000μW/cm2といった高い規制値になっています。
このようなレベルでは「安全性が保たれない」と思う国や自治体は、予防原則の立場で次々と厳しい値を決めています。
オーストリアの環境都市、ザルツブルクは、実質的に0.1μW/cm2としました。
この値は、レンガ造りの家の中ではその10分の1の0.01μW/cm2になるとみて決められたようです。
また、EU(欧州連合)委員会内のST0A委員会は携帯タワーに対して0.01μW/cm2を提言しています。
その値は、実に日本の規制値の「10万分の1」です。
日本は木造家屋が多いので、欧米の基準よりもむしろ厳しくしなくてはならないはずです。