・欧州とはケタ違いの「基準値」
しかも、今まさにIARCは世界14ヵ国の脳腫瘍患者数千人を対象にした大規な疫学調査を実施している最中なのである。
結果が出るのは2~3年後とされるが、あるいはわが世の春を讃歌する携帯電話が一転して、タバコのような存在にならないとも限らない。
何しろWHOの今の事務局長は、自ら「電磁波過敏症」を公言している元ノルウェー首相のブルントラント女史その人である。
とはいえ、それはあくまで今後に予想される事態。現状では携帯電話会社や国の姿勢にかかっているのだが、実態はどうか。
「国の電波防護指針に定められた基準値さえ守っていただければ、人体には安全と言えます」(総務省電波環境課)
「お客様のご要望に基づいて(基地局設置による)エリア拡大を進めている。通信という公共性の高い事業でもあり、ご理解いただきたい」(J-フォン)
「地元への配慮を考えたうえで基地局の建設を検討している」(auを展開するKDDI)
まるでトラブルになるのが不思議という感覚だ。
携帯電話の「安全」という場合、これまでに述べた中継基地局のマイクロ波の強度だけでなく、携帯電話本体からのマイクロ波も問題になる。
それぞれ「電力東密度」、「局所SAR値(人体の電磁波吸収量)という単位で示される。
彼らが「錦の御旗」のように掲げる「基準値」だが、日本では電力束密度は最大1000マイクロワット/cm2。
これは米、カナダなどと同じレベルだが、スイスの「4~10」、イタリアやロシアの「10」(それぞれマイクロワット/cm2)に比べると、ケタ違いに高い。
オーストリア・ザルツブルク州では、さらに低い0.1マイクロワット/cm2で行政府と業者が合意しているという。
実際には、基地局からのマイクロ波の電力東密度は数マイクロワット/cm2以下のレベルのようだが、その強さは、基地局からの距離と角度(水平方向から数度下向きが最大)で決まる。
ビル、マンション、住宅がごっちやに密集している日本では、窓を開けると隣のビル屋上の基地局了ンテナが正面にバーン・・・というケースも少なくないのではないか。
一方、SAR値の日本での基準値は「10グラム当たり2ワット/キログラム」というもの。
例えば米国は「1グラム当たり1.6ワット/キログラム」で、近いようにも見えるが、
「『・・・グラム当たり』を換算すれば、実際には米国の方が2倍も厳しい」(荻野晃也・京都大学工学研究科講師)。
少なくとも欧州との比較では、日本の基準は厳しいとは言えないようだ。