・訴訟合戦から「白紙撤回」まで
もちろん、一方では、携帯電話の国内普及率は55%に達し、ユーザーは7000万人を超えるともいわれる。
特にビジネスマンや若者層では、持っていない人を探すのが難しいほどだ。
テレビを見ても、人気タレントが「ケータイ」を手ににっこりほほ笑むコマーシャルがひっきりなしに流れている。
表層だけを眺めれば、まさに「電磁波などどこ吹く風」といった雰囲気であるのは間違いない。
ところが、実際には、電磁波への不安は「鎮静化」するどころか、大分のケースのようにブスブスとくすぶり、燃え広がる兆しさえあるのだ。
市民団体「中継塔問題を考える九州ネットワーク」事務局の宮崎周氏は、
「九州だけでも、少なくとも20ヵ所で中継基地局の反対運動が継続中だ」
と指摘する。
市民団体「ガウスネット・電磁波問題全国ネットワーク」によれば、東京、福島などでも反対運動が続いており、その数は全国で50ヵ所前後にものぼると見ている。
例えば東京では、墨田区の両国国技館近くの旧NTT局舎跡地にドコモなどが高さ200メートルの電波中継タワー(オフィスビル兼用)をつくる計画を打ち出したため、撤回を求める住民運動が2年前にぼっ発。
普通のオフィスビルからの計画変更が突然だったうえ、現場周辺は幼稚園、中学校、高校、大型の総合病院がひしめいているため、住民だけでなく園児や生徒の父母からも憤りの声が上がり、反対署名は9000人に達した。
結局、この対立は昨年10月、都の紛争予防条例によるあっせんに持ち込まれた。
「建設計画の見直しを求める地域住民の会」メンバーの武内功子さんは言う。
「区の開発計画の一環なので撤回は難しく、電磁波の測定など不安解消に努めるという条件であっせんには応じましたが、そもそもこれほど学校や幼稚園が集中しているところに危険性が疑われるモノをつくること自体、納得できません」
さらに九州では、昨年から今年にかけて福両県三瀦町と熊本市楡木で、ドコモ側が反対住民を名指しして「工事妨害禁止」を求める仮処分を申し立て、それが認められると今度は住民側かドコモを訴える--という乱戦に陥っている。
逆に携帯事業者側が白紙撤回したり、住民らと協議のうえで別の場所を選ぶという『円満解決』のケースも東京、埼玉、九州などで出てきている。
今、こうした反対運動が勢いついている背景には、昨年から今年にかけての電磁波をめぐる状況の変化がある。
すなわち昨年10月、マイクロ波とともに健康への影響が疑われた超低周波(50~60ヘルツ)について、WHO(世界保健機関)の下部組織で発がん物質の研究では世界をリードする国際がん研究機関(IARC)が、その発がん性リストの3番目のランク「2B(発がん性を持つ可能性がある)」に、史上初めて位置づけたのだ。
それまでWHOは「日常に浴びる程度の超低周波では(悪影響の)確たる証拠はない」としていた。
このため、「同じ電磁波であるマイクロ波についても、あのような劇的な変更がありうると考えるのが当然で、反対運動の支えにもなる」(ある運動関係者)