・<携帯電話をめぐる無気味な噂>
噂は以前からあった。
日く、携帯で長く話していると頭が痛くなることがある。
あるいは、目がチカチカする。
日く、仕事で携帯を支給されてから気分が落ち着かない。
あるいは、イライラするようになった。
ただ、それらの切実な個人的体験を語る人々に対して、周囲はほとんどがバカげた妄想として、まともに対応しようとしてこなかった。
あいつは少し神経質だからと、嘲笑の対象になることさえあった。
携帯電話の潜在的な危険性に対して科学のメスが入るようになったのは、実際、ごく最近のことなのである。
そして今、たわいもなかったはずのこれらの噂は、逃れようのない恐怖として、現代人の前に立ちはだかろうとしている。
たとえば、郵政省は携帯電話が人体に及ぼす悪影響を解明するための疫学調査を本年度の秋から2年がかりで行うことを決定したばかりである。
調査は、東京、大阪の脳腫瘍患者数百人と、その2~3倍の健康な人に協力を求め、合計3000人を対象に携帯電話の使用状況や発病の様子、症状などを調べる方向で検討している。
ときを同じくして出された郵政省の発表によると、来夏をめどに携帯電話に関係する電波法を改正するという。
これは携帯電話から発せられる電磁波を規制する法案である。
これまで同省は、携帯電話から発せられる電磁波のエネルギー量に関して法的な規制を設けていなかった。
メーカー各社はガイドラインに基づく自主規制は行っていたが、法的な規制がないことから、データすら公表していなかったのである。
なんともあわただしい決定が矢継ぎ早に行われている。
表現は悪いが、ドタバタとあわてふためいている感さえある。
その背景にあるのは、「どうやら本当にやばいぞ!」という危機意識である。このままほうっておいたらいい逃れできない。
今のうちになんとか体裁をつくろわなけれぱ・・、という官僚意識てある。
実際、日本のアクションはあまりにも遅かった。
たとえば前述の大規模な疫学調査にしても、実はIARC(世界保健機構の国際ガン研究機関)が世界規模で行っているものに、遅ればせながら、世界で14番目にやっと参加したにすぎないのである。
最近では日本の週刊誌などでもごくまれに、「携帯電話は人体に危険!?」のような記事を見かけるが、こればタメ息が出るほど世界の常識とかけ離れている。
欧米の科学者の間では、携帯電話が危険か危険でないかはもう論ずべき問題ではないのだ。
「危険である」ことは疑いようのない事実なのであり、現在ではそれが「どのような危険なのか」が論じられているのである