化学物質過敏症の診断・治療と問題点―小児科の見地から | 化学物質過敏症 runのブログ

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・シンポジウム8
化学物質過敏症の診断・治療と問題点
座長:坂部 貢1),山川有子2)(1)北里研究所病院臨床環境医学センター,2)横浜栄共済病院皮膚科)

3.化学物質過敏症の診断・治療と問題点―小児科の見地から

角田和彦
坂総合病院小児科


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 生活環境中に存在する多種の微量化学物質によって神経・免疫・内分泌機能が障害されることが明らかになりつつある.

環境中化学物質は免疫・神経・内分泌のネットワークの発達に影響すると考えられる.

化学物質による障害の機序は様々であり,まだ未解明な点が多い.有機リン系殺虫剤・難燃剤などの有機リン化合物はコリンエステラーゼや神経標的エステラーゼなどを障害する.

有機塩素系殺虫剤やピレスロイド系殺虫剤は神経細胞のNaチャンネルを障害する.ホルムアルデヒドなどアルデヒド類やトルエンなどの揮発性有機化合物は知覚神経C繊維を刺激し軸索反射や神経ペプタイドを介するアレルギー反応の増強なども加わりながら症状を誘発させる.

多種の原因が重なり合い,多種の症状を起こすことが診断を複雑化させ難しくさせている.

新築家屋に転居した小児23例の自宅家屋の化学物質濃度と病状の変化を観察すると,化学物質濃度が高い家庭では,低年齢においては気道系や皮膚などに対する刺激症状の悪化が,思春期近くになると頭痛や吐き気,立ちくらみなどの神経系の症状を起こした.

また,思春期に神経系症状を呈した症例のなかでは,その後に化学物質過敏症に移行した例がみられた.

化学物質過敏症の診断には,多種にわたる症状を包括的にとらえて疑いを持つ事,さらには症例の化学物質に対する過敏性を把握できる検査手段が必要である.

現在,当院では,詳細な問診,眼科的所見,アレルギー状態の把握・栄養状態の評価,赤血球コリンエステラーゼの測定,患児住居の化学物質測定に加えて,脳内酸素モニター(近赤外線分光計:NIRO300)を使い,化学物質吸入負荷試験と起立試験を組み合わせた方法で化学物質に対する反応性を観察している.

シックハウス症候群・化学物質過敏症例では吸入負荷によって脳内酸素化ヘモグロビン(O2Hb)が変動する.

また,起立によってO2Hbは持続性に低下し,化学物質吸入負荷後は悪化する.

これらの所見や症状はセロトニン受容体(1B/1D)刺激剤(スマトリプタン)の投与により改善する例がいることから,化学物質過敏症の病態の一部にセロトニンが関与している可能性が考えられた.

化学物質過敏症の治療においては,化学物質の曝露の回避,化学物質に対する過敏性を低下させるためにビタミンやミネラルなどの投与や食事療法,薬剤の投与など病態に適した治療方法が必要となるが確定した治療法はまだない.

今後,さらなる研究が必要である.

第16回日本アレルギー学会春季臨床大会 2004年5月開催