・シンポジウム8
化学物質過敏症の診断・治療と問題点
座長:坂部 貢1),山川有子2)(1)北里研究所病院臨床環境医学センター,2)横浜栄共済病院皮膚科)
2.稲作地域における環境因子と気管支喘息―穀物粉塵と野焼きを中心に―
萱場広之
秋田大学医学部統合医学講座臨床検査医学分野
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【背景】演者は秋田の代表的稲作地である大潟村の近傍で地域医療に従事し,小児の気管支喘息も診療機会の多い疾患の一つである.
秋田のような農業県の大気は清浄で喘息患者にとっては過ごし安い環境と思われがちである.
実際,春に大都市圏から秋田に転居した患者は喘息症状の改善に喜ぶ場合が多い.
しかし,秋の稲の収穫シーズンにはそれが幻想であったと気付く.
稲作農家の近傍では稲の収穫期に稲籾の乾燥に伴い微細な穀物粉塵が発生し,さらに稲わらや稲籾の野焼きの煙と香りは近隣の住宅地にも及ぶ.
稲籾の乾燥,野焼きのシーズンには救急外来の喘息患者が増加することは,秋田で地域医療に携わる医師であれば以前から知られたことであり,民間,医師会においてもその規制の強化を望む声が高まっている.
【目的】稲作地域における穀物粉塵と煙に関する規制を目的とする.
これまで行政への要望に際しての傍証とすべく,いくつかの検討を行った.
【検討事項】1)喘息小児患者を対象とした血清IgE測定と,アレルゲン検索,稲藁エキススクラッチテストなどの臨床検査学的検討,2)穀物粉塵の分析とその抽出物による好酸球への影響,3)稲藁焼きで発生する煙中の気道刺激物質の分析.
【結果】発生する穀物粉塵には,稲籾から剥離した鋭い針状表皮が多く含まれ,皮膚および咽頭・気道粘膜の物理的刺激となると考えられた.
農村地域ではTh1に傾いた小児が多いと報告されているが,大潟村周辺の患児ではIgE値は高値のものが多く,各種アレルゲン陽性率も住宅地や港町の患者と比べて際だった特徴はなかった.
稲藁エキスのスクラッチテストは陽性率,皮膚反応の程度ともダニアレルゲンに比して極めて低率かつ弱く,穀物粉塵が直接アレルゲンとして作用する場合は多くないと考えられた.
稲藁抽出液によって好酸球はMac-1,ICAM-1の発現増強をおこし,その責任成分は粉塵に含まれるLPSと考えられた.
また,稲藁焼きで発生する刺激臭のある煙にはホルムアルデヒド,アセトアルデヒドの他,多くの揮発性物質が含まれており,周辺住宅地域での気道刺激を引き起こす可能性が示唆された.
第16回日本アレルギー学会春季臨床大会 2004年5月開催