・シンポジウム8
化学物質過敏症の診断・治療と問題点
座長:坂部 貢1),山川有子2)(1)北里研究所病院臨床環境医学センター,2)横浜栄共済病院皮膚科)
4.化学物質過敏症の診断・治療と問題点―アレルギーの見地から―
長谷川眞紀,西山晃好,大友 守,秋山一男
国立相模原病院臨床環境医学センター
--------------------------------------------------------------------------------
“シックハウス症候群”が社会問題化して,国立相模原病院に専門診療施設として,臨床環境医学センターが設置され,稼働を始めたのは平成14年4月である.
“シックハウス症候群”の病態の成立にアレルギー的機序が関与しているのではないかとの考えから,アレルギー・リウマチ疾患の準ナショナルセンターに指定された当院に診療設備が作られたものと思われる.
シックハウス症候群は当時(現在もまだ),医学的なdisease entityが確立しておらず,開設に当たって我々はとくに,化学物質過敏症(CS)に焦点を当てて診療することにした.
CSもまたdisease entityが確立した疾患とは言い難いが,1.化学物質への曝露歴があること,2.症状が多臓器にわたること,3.症状を説明できるような他の疾患が除外できること,4.慢性の疾患であること,の4条件を満たす患者を可能性例としてデータを集積していくことにした.
平成15年12月までに110余名の患者が受診したが,その中で上記条件による可能性例は44例であった.
年齢は15歳から71歳,女性31名(70%),男性13名(30%)であった.何らかのアレルギー疾患の既往,または合併を持っている患者が38名(86%)で,とくにアレルギー性鼻炎の合併が27名(61%),にみられ,一般人口中におけるアレルギー性疾患の合併よりも高率であった.
IgEは200IU/ml以下の患者が29名(66%)であり,1000IU/ml以上の高値を示した患者も2名みられた.
ホルムアルデヒドに対するIgE抗体が証明された患者はいなかった.また化学物質負荷試験の前後でサイトカイン(IL-2,IL-4,IL-5,IL-13,γIFN)の産生能,末梢血からのヒスタミン遊離を検査したが有意の変化をみなかった.
アレルギー反応は特異抗原に対する反応として起こるものであり,「構造的に関連のない多種の化学物質に反応するようになる」というCSがアレルギー的機序により惹起されるとは考えにくいが,既存のアレルギー状態を悪化させる,あるいはアレルギー疾患を持った患者に起こりやすいという可能性が示唆された.
第16回日本アレルギー学会春季臨床大会 2004年5月開催