・その論文は「生物電気学会誌(バイオエレクトロマグネテックス)」に発表されたのだが、驚くべき内容であった。
ロンドン博士がロスアンゼルスで調査した小児白血病の増加率が1.69倍に増加しているとの91年の研究を更に詳しく調べたのである。
その結果、カルウシウム漏洩の起き易いような地球磁場に1日の50%以上をすごしている子供の小児白血病は実に9.2倍(95%信頼区間で1.3~64.6)にもなっていたのだ。
1日の80%以上の場合では「無限大(∞)」となっているのだが、これは統計的に考えても無理などで紹介するだけにとどめる。
この論文のことは、私も講演会などで良く紹介するのだが、驚くべき事に「学会報告書」には全く触れられてはいないのである。
末尾にある「参考文献リスト」には掲載されているにもかかわらず、一切無視しているわけだ。
この研究は米国・電力研究所と国立労働安全健康研究所から資金援助を受けた研究であり、委員の中に入っている電中研の笹野氏の知らないはずがない。
特別委員会のメンバーが、「インチキ論文であり評価する価値がない」と判断したのであれば、大喜びでコメントをしたはずだ。
「困る論文」「知られたくない論文」として無視する事に決めたのであろうか?それとも読まなかったのであろうか?
これ以外にも、「学会報告書」に紹介されている疫学研究で不思議だと思う紹介箇所が幾つもある。その内の2つについての批判をしておくことにする。
米国立ガン研究所のリネット(Linet)論文とドイツのミカエリス(Michaelis)論文である。
付録・8では代表研究者の名前をアルファベット順に並べてあるので、その所をそのまま引用する。
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研究者 曝露評価 (小児)白血病
RR 95%CI
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Linet(1997) 磁界測定値(≧0.20μT) 1.2 0.9~1.8
磁界測定値(0.4~0.499μT) 3.3 1.2~9.4
磁界測定値(≧0.50μT) 1.4 0.5~1.6
ワイアーコード 0.9 0.5~1.6
London(1991) ワイアーコード 1.7 1.1~2.5
磁界測定値(≧0.27μT) 1.7 0.8~3.6
Michaelis(1997) 磁界測定値(≧0.20μT) 3.2 0.7~14.9
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(荻野注:1μT=10mG、RR=相対リスク、95%CI=95%信頼区間)
これを読んで私はあぜんとした。
私も小児白血病の疫学研究結果のリストを講演会などで良く示すし、本などにも掲載している。
その場合は、発表年代順で示し、RRやオッズ比などをすべて「増加率」とし、95%CIは省略して、重要な代表値のみを示すことにしている。私のリストを「学会報告書」と同じように書くと下表になる(London論文は除く)。
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研究者 曝露評価 (小児)白血病
RR 95%CI
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Linet(1997) 磁界測定値(≧0.30μT) 1.72 1.03~2.86
磁界測定値(0.4~0.499μT) 6.41 1.30~31.73
Michaelis(1997) 磁界測定値(≧0.20μT) 3.2 0.7 ~14.9
磁界測定値(≧0.20μT) 11.1 1.2~103.7
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