化学物質の生態リスクを耐性の進化から探る4 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・暴露レベルと生態リスクの推定
これまでに発表された様々な生態毒性データを統合して,広いデータに基づいて解析した結果,動植物プランクトンの適応度(個体群の潜在的な増殖率)は,化学物質の暴露濃度が増えるに従って,ほぼ2次関数的に減少する,つまり化学物質濃度が2倍,3倍になると適応度の減少分は4倍,9倍になることがわかっています(図4)。

また図5に示したように,耐性のコストは,耐性が高くなるに従って増加する傾向があります。

ミジンコの最大適応度は,このような耐性のコストとベネフィットを加味した上で,適応度の極大点として求めることができ,暴露濃度x もそこから計算することができます。

その結果,定常的な暴露濃度は,恋瀬川(高浜入り)で15μg/L,湖心で14μg/Lと推定され,適応度の減少分として換算した生態リスクの大きさは,それぞれ,0.071,0.070となりました。

暴露の濃度は,これらの集団の急性毒性値の100分の1のオーダーであることがわかります(表1)。

ミジンコの適応度は,せいぜい0.3なので,耐性のコストを含め,化学汚染によって23%も減少した計算になります。

これは,生物集団への生態リスクとしては無視できない大きさであることを示唆しています。


おわりに
集団遺伝学的なモニタリングの利点は,野生生物を現場から採集し,飼育と毒性試験さえできれば,その生物が被ってきた環境中暴露濃度や生態リスクを推定できることです。

ただし,耐性の適応度コストを定量的に測定しておく必要があります。

また,集団が他の集団から十分に隔離されていること,耐性遺伝子の変異が十分に保有されていること,耐性のコストが他の環境要因に影響されないことなど,いくつかの検証が難しい仮定に基づいていることに注意しなくてはなりません。

今後の研究によって,これらの要因によってもたらされる問題を克服できれば,特定の場所に生息しているミジンコ,また一緒に生息している他の生物に対する生態リスクを,より詳細に評価することが可能になると期待されます。

(たなか よしなり,環境リスク研究センター
生態リスク評価研究室長)