・(精神疾患)
Ⅰ はじめに
石橋らによって提唱された広義のSHSの臨床分類では、1型:化学物質による中毒症状、2型:化学物質の曝露の可能性が大きいもの、3型:化学物質の曝露は考えにくいもの、4型:アレルギー疾患や他の身体的疾患、に分けられ、精神・心理的要因の関与が考えられるものは3型に含められているが、狭義のSHSに相当するのは1型と2型のみであるとされている。
したがって、狭義のSHSのみを対象にすれば、原理的には精神疾患との鑑別は必要ないことになる。
しかし、実際には、上記の1型や2型と考えられる場合であっても化学物質の関与を証明することが難しいことも少なくなく、そのような場合には類似の症状を呈する精神疾患も念頭に鑑別を進める必要がある。
本稿では、上記の目的のために念頭に置くべき精神疾患の疾患概念と鑑別のポイントについて、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-Ⅳ-TRに基づいて概説する。
ただし、各精神疾患について詳しく述べることは、本マニュアルの守備範囲を超えるので、必要に応じてDSM-Ⅳ-TRの解説書などをご参照願いたい。
Ⅱ 身体表現性障害
身体表現性障害とは、臓器の機能や構造には全く異常がないのに、身体症状だけを呈する精神疾患であり、脳機能との結びつきでは「心因=大脳皮質の働き」の関与が想定される。
この中には、以前から「自律神経失調症」と呼ばれてきた全身の不定愁訴や軽度の不安・抑うつなどを呈する病態(鑑別不能型身体表現性障害)も含まれている。
「はじめに」に述べた3型のように、SHS様の症状を呈しても、身体的要因の関与が認められないものは狭義のSHSとは診断されないため、身体表現性障害と診断される可能性が高くなる。
ただし、以下で説明するが、それ以外の頻度の高い精神疾患(大うつ病、パニック障害、統合失調症など)が主疾患である可能性ももちろんある。