・(中毒)
Ⅰ.化学物質による中毒
1. 概念
多くの化学物質は、一定量以上が生体に暴露されると有害な影響をもたらし、これを中毒と呼んでいる。
中毒成立の条件は、暴露または吸収量と生体影響の発現率との間に、①閾値の存在②用量・反応関係が成立することである。
短期間に十分量の化学物質が生体に作用し、生体機能が一過性あるいは永久的に障害を受けて停止した状態を急性中毒という。
一方、比較的微量の化学物質に対し、長時間暴露され、生体機能の変化とそれに対する種々の反応がみられるものを慢性中毒と呼んでいる。
慢性中毒は急性中毒の延長にあるというより、むしろ繰り返される暴露の生体反応・適応過程の病的状態と考えるべきであり、室内空気質汚染に想定される微量化学物質の持続暴露では重視される病態である。
中毒による化学物質の生体影響は動物種、個体、性別、臓器、細胞、および分子レベルで異なることが多い。
2. 化学物質の有害性評価
化学物質の急性毒性の強さを実験的に表す指標として50%の動物が死亡する量および濃度である50%致死量(LD50)と50%致死濃度(LC50)が使われる。
医薬品では、治療効果が50%の個人に現れるレベルが50%有効量(ED50)である。
また、それ以下では全く影響がない量が無影響量(No observed effect level, NOEL)である。
表省略
3. 症状
化学物質による健康障害は、化学物質の特性によって異なる。
これまでに報告されている室内環境中化学物質によると考えられる症状は、以下のようである。
◎頭:頭痛、頭重感
◎顔:目が痛い・視覚異常・耳鳴り・顔がほてる
◎喉:喉がつまる
◎肩:肩が凝る
◎胸:息苦しい・胸がつまる・心臓がドキドキする
◎腹:悪心、嘔吐、食欲低下・腹満感、下痢、便秘
◎腰:腰痛
◎手足:手足先がしびれる・下半身が冷える
これらの症状のうち、頭重感、目が痛いなどは、ホルムアルデヒドやトルエンなどの有機溶剤による典型的な刺激症状と考えられる。
特にホルムアルデヒドは水溶性であり、粒子に付着した状態では、刺激物質としてだけではなく、抗原としても注目されており、皮膚感作性の刺激物質に分類されている。
視覚異常、息苦しい、手足先がしびれるなどは中枢・末梢神経、自律神経症状である。
これらの症状の一部は、クロルピリホスなどの有機リン系化学物質の中毒症状として説明が可能である。