・Ⅳ 原因物質
アレルギー反応を起こす抗原は一般的に分子量5千以上の高分子蛋白であり、屋内環境抗原としては、ダニの虫体や糞、真菌、ペット皮屑などが知られる。
したがって、シックハウス症候群の原因物質である低分子の揮発性有機化合物(VOC)はアレルギー疾患の原因物質にはなりにくい。
ただし稀ながら例外も存在し、室内環境中のホルムアルデヒドにより誘発された皮膚・粘膜症状、呼吸器症状の症例が報告されており、特異IgE抗体とパッチテストの陽性が確認されている(文献5)。
その機序として、イソシアネートによる気管支喘息や過敏性肺炎で知られるように、ハプテンと呼ばれる低分子の不完全抗原が生体内でキャリアー蛋白に結合することによりアレルギー反応を起こした可能性がある。
Ⅴ アレルギー学的検査
1.血清総IgE値
血清総IgE値が高値であればアレルギー疾患による症状あるいはアレルギー疾患の合併を疑う。
2.特異的IgE抗体
保険医療で測定可能な有機化合物に対する特異的IgE抗体測定法(CAP-RAST)として、ホルマリン、イソシアネート、エチレンオキサイド、無水フタル酸がある。
前述のように、これらの暴露により症状が出現し、CAP-RASTが陽性であればシックハウス症候群ではなくアレルギー疾患を疑う。
3.皮膚反応
プリック・スクラッチテスト、皮内テスト、パッチテストは基本的にアレルギー反応の検査であるが、シックハウス症候群でも皮膚反応試験が診断に有用との報告があるがエビデンスは不十分である。
4.免疫担当細胞・サイトカイン
免疫・アレルギー疾患におけるTh1/Th2バランスに関わる細胞分画やサイトカイン測定はアレルギー疾患のスクリーニングとしては一般的ではなく、また、シックハウス症候群では有意の変動を示さない(文献6)。
Ⅵ 生理検査
1.呼吸機能検査
気管支喘息ではスパイロメトリーで閉塞性換気障害がみられ、軽症や治療中でも末梢気流制限が残存することが多い。
シックハウス症候群では、このような呼吸機能障害はみられない。
2.気道過敏性試験
気管支喘息と咳喘息は気道過敏性が亢進しており、診断や長期管理の指標に用いられる。
シックハウス症候群では、咳嗽や呼吸困難感の有無に関わらず気道過敏性は正常である。
3.呼気中一酸化窒素(FeNO)
気管支喘息と咳喘息では気道炎症を反映する呼気一酸化窒素が高値となり、治療により低下するが、喫煙者では低値となる。
シックハウス症候群では有意の上昇は示さない。