・2)診断の手順
① 問診・アンケート
1.
生活歴、居住歴、職業歴
シックハウス症候群の問診上最も重要なことは、どんな場所あるいは環境で症状が誘発されるかということを丁寧に聴取することである。
特定の場所、条件下(複数でも可)で症状が誘発され、そこを離れたら症状が消失、もしくは軽減することがシックハウス症候群診断上の最低必要条件である。
その場所で初めて症状が誘発された場合でも、それ以前の居住歴、職業歴が症状誘発の準備状態を形成した可能性もあるので、化学物質と接触するような既往がないか否かを確かめておく必要もある。
症状誘発のみられる場所は“シックハウス症候群”といわれるところからも自宅が最も多く、自宅を新築した後、増改築のあと、内装を変えた後、であれば建材、内装材、壁紙、畳、じゅうたん、カーテン、ワックスがけ、などが化学物質発生源になっている可能性がある。
またタンス、ベッド、書棚、などの家具も、それが合板のものであったり、塗料が塗られていたりすれば発生源になり得る。
換気状態が十分かどうかも訊いておかねばならない。
どの部屋でも十分な換気を確保する(2時間に1回は部屋の空気全体が入れ替わる程度)ことが義務づけられているが、特にマンションなどでは窓のない部屋が出来ることがある。
そんな部屋をクローゼット、あるいはサービスルームとして使用している場合、換気扇による強制換気がなければ室内の化学物質濃度が高くなる可能性が高い。
24時間換気用の換気扇を電気代がもったいないからということで切っている場合がある。
自宅に限らず、学校、職場などで同様のことがあってもシックハウス症候群の発生があり得る。
患者宅の環境調査をすると防虫剤であるp-ジクロロベンゼンが非常に高い場合を時々みる。
高気密の家屋で大量の防虫剤をうっかり使っている例である。
趣味用品が原因となっていることもある。写真用材、特殊な接着剤、絵の具などである。
また開放型燃焼機器(石油ストーブ)は石油を燃やしたときに様々な化学物質が発生すると言われており、使用する場合は強制排気するタイプでなければならない。
またたばこの煙は化学物質の宝庫であり、患者自身の喫煙は論外であるが、家族に喫煙者がいる場合も気を付けなければならない。
建材、内装材で化学物質発生源となりうるものの例をあげておく。
合板、パーティクルボード、MDF、断熱材、複合フローリング、ビニール壁紙、防蟻剤、木材保存剤、油性ペイント、アルキド樹脂塗料、油性ニス、壁紙施工用でんぷん系接着剤、木工用接着、クロロプレンゴム系溶剤型接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、エチレン酢酸樹脂系エマルジョン型接着剤、ポリウレタン型接着剤などである。職業歴では上記のようなものを扱う職業に就いていたことがないかどうかを聞いておく必要がある。
患者がこういうものに接触すると具合が悪いと言う場合がある。
上記の化学物質発生源となるものはもちろんであるが、それ以外に多いのは印刷物(新聞、新聞への折り込み広告、新刊書など)、クリーニングに出したばかりの洗濯物、化粧品、香水、オーデコロン、マニュキュア、マニュキュアの除去液、シャンプー、リンス、石けん、ガソリン臭、排気ガス、消毒剤(電車、バスの車内で体調不良を起こす場合がある)、脱臭剤、芳香剤などである。
また、シックハウス症候群の症状がその患者の日常生活にどれほどの影響を与えているのかも聞いておく必要がある。
特異的治療法が分かっていない疾患であり、いろいろ治療しても完全に症状が消失することは少ない。
その場合、その症状と日常生活への影響を秤にかけて、ある程度の症状を許容しても日常生活を出来るだけ正常に送ることを優先すべきことがある。
日常生活の項目としては、食事への影響、仕事・通学・家事への影響、家具・衣類の使用への影響、車の運転・旅行への影響、化粧品の使用、社会活動の制限、趣味・レクリエーションへの影響、家族内の軋轢の原因になっていないか否かの確認、などである。