・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.htm
・磁場により松果体からのメラトニン分泌が撹乱されるか?
-職業的50 Hz磁場曝露の影響の研究-
発電, 送電, 配電から発生する電場および磁場は, 工業国であればどこにでも存在する (欧州では 50 Hz, 北米では 60 Hz). 電磁波の一部ともいえる可視光 (波長 400~730 nm) は, 光感受性の松果体からメラトニン夜間分泌を抑制することが証明されている.
可視領域外波長の電磁波もメラトニン分泌抑制を起す可能性が考えられる. メラトニン分泌の変調は, 疲労, 睡眠障害, 不安症, 抑うつ等を引き起こすらしい. また, メラトニンは制癌作用を有していることが実験的に証明されている. ラットにおいて, 50 Hz の電磁場の急性 (12時間) 曝露では100 _T, 長期 (1か月) 曝露では 10 _T でメラトニン分泌が減少したとの報告のほか, 電磁場への曝露によるメラトニン分泌減少の報告が数多くある.
しかし, ヒトとげっ歯類では夜間の活動性が異なるほか, 松果体の解剖学的位置および頭蓋骨の幾何学構造が異なる.
これまでのヒトと高等哺乳類に対する磁場の影響調査では, 影響なしかあるいは解釈が分かれる不明瞭な結果であったが, ほとんどが急性曝露の調査であり, 慢性曝露ではメラトニン分泌に影響を及ぼす可能性が残る.
そこで, 著者らは職業上, 長期間 (1~20年), 磁場に曝露されている人を対象に調査した.
磁場長期被曝者15名と対照者15名を対象に, 明期10時間, 暗期14時間の秋に調査した.
対象者は, 31~47歳の男性で, 急性および慢性疾患が無く, 規則的な睡眠習慣を有し, 喫煙および服薬をしておらず, 7:00~23:00 が活動期の人であった. また, 一般的臨床検査で健康状態, 内分泌機能および血液細胞が正常範囲であることを確認した.
磁場長期被曝者は, 高電圧施設作業現場の従業員で, この作業現場の近くの宿舎に居住しており, 昼夜を通して磁場に曝露さされていた.
15名のうち10名が7~20年間被曝しており, 5名が1~4年間被曝していた.
対照者15名は職場で磁場に曝露されていないホワイトカラーから選ばれた. 環境の磁場レベルは線量計で 40~800 Hz の周波数帯を1週間計測した. メラトニン分泌に関する検査のため, 20:00~8:00 に1時間毎に採血し, この間の尿を採取した. 血中メラトニン濃度およびメラトニン代謝物である尿中6-スルファトキシメラトニン濃度を測定した.
長期被曝者の環境の磁場レベルは, 個人毎の1週間の等比中項で 0.1~2.6 _T, 15名の平均が 0.72 _T, そのうち昼間の平均が 0.64 _T, 夜間の平均が 0.82 _T であった.
対照者の環境の磁場レベルは, 個人毎の1週間の等比中項は 0.004~0.092 _T, 15名の平均が 0.04 _T, 昼夜いずれも 0.04 _T であった.
血中メラトニン濃度の 20:00~8:00 の日内変動をみると, 長期被曝者群と対象者群の間で差異はみられず, 20:00~22:00 は低レベルで推移し, 以後上昇し, 2:00~5:00 に最高値に達し, 以後下降した.
20:00~8:00 の尿中6-スルファトキシメラトニン濃度も両群で差異はみられなかった.
血中メラトニン濃度について, 長期被曝者のうち 0.3 _T を超える環境にいた9名のみを対象者群と比較しても差異はみられなかった.
著者らの以前の研究では, 20~30歳の健康な男性を 50 Hz (10 _T) 環境に9時間置いても血中メラトニンと尿中6-スルファトキシメラトニンは変化しなかった.
今回, 職業上長期に被曝する人を対象にして, 慢性曝露の影響を調べたが, 磁場によるメラトニン分泌およびその日内変動への影響は少なくとも40歳前後の男性には認められなかった.