・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.htm
・薬草医薬品による重大な精神神経系副作用
代替療法 (alternative therapies) とくに薬草治療がどれほど一般大衆に用いられているかは, 医療関係者を仰天させるべき数字となっている.
年間の代替療法の使用頻度は, ドイツでは国民の65%, 米国で42%, 英国で20%となっており, そのうち薬草を使用したものが最も多い.
薬草療法の適用例のうち際立って多いのが精神神経学的病態である.
1996年の米国での調査によれば, 代替療法の使用された状態は, 感情障害, 不安, 適応障害 (重度ストレス症候群), 薬物異常使用, その他の精神異常が多かった.
米国では, 国立補完療法・代替医学研究センター National Center for Complementary and Alternative Medicine が国立衛生研究所 (NIH) に開設され, 薬草医薬について試験が行われている.
しかし, 多くのものはまだ試験されておらず, 治療上の価値も不明のままである.
この総説では, コンピュータによる文献検索を行って, こうした薬品による副作用を調べた. 文献は1990年以降に報告されたものに限り, また医療行為ではない用法 (「元気回復」) によるものは除外した.
調査の結果, 多数の報告が見出された.
薬草成分に起因すると考えられる副作用:原因となった薬草と起こった副作用の主なものは, オタネニンジン (チョウセンニンジン, 主成分tripertin, saponin, 不眠, 性器出血, 乳房痛), ユーカリ (eucalyptin, quercetin, チアノーゼ, 譫妄), トケイソウ (alkaloids, flavonoids, 嘔気, 眠気, 頻脈), チョウセンアサガオ (tropane alkaloids, 失調, 霧視, 見当識障害, 副交感神経遮断症状), カンゾウ (glycyrrhizic acid, 鉱質コルチコイド過剰症状), マオウ (ephedrine, 不安, 錯乱, 不眠, 精神異常), イチョウ (ginkgolides, flavonoids, 胃腸症状, アレルギー, 頭痛), オトギリソウ(hypericin, 胃腸症状, 疲労感, 不安) 等であった.
混入物, 汚染物によると考えられる副作用:薬草製剤が重金属等に汚染されている場合や意図的に活性物質が混入されている場合にそれらによる健康障害がおこっている.
事例としては, 漢方複合製剤に砒素が混入していて, 3歳の女児に脳浮腫, 腎不全が生じた例, 同じく「漢方」製剤で癲癇に効能が謳ってあるものがフェニトイン, カルバマゼピンを含んでおり, 服用した33歳女性が昏睡に陥った例, 同様に糖尿病効果を謳った漢方薬にグリベンクラミドが配合されており, 56歳男性が低血糖昏睡に陥った例, など多数が収録してある.
汚染物重金属としては, 砒素, 鉛, 水銀, タリウムがあり, 意図的に混入された (としか考えられない) 薬物には抗癲癇薬, 抗糖尿病薬のほか, サリチル酸メチル, ステロイド剤等があった.
薬草医薬と治療薬との相互作用:これも多数の事例報告があり, あるものは同効薬であるための相加効果であるが, 薬物代謝に対する影響を介する相互作用もある.
相互作用の原因薬としては, betel nuts (ビンロウジ), ginkgo (イチョウ), ginseng (ニンジン) がよく見られる. Kava (カワカワ;ポリネシア産コショウ属植物) にはドパミン拮抗作用があり, levodopa 服用中の75歳のパーキンソン病婦人に症状を悪化させた報告がある.
St. John's wort (オトギリソウ) が paroxetine と相互作用を起こしてセロトニン症状を誘発する事例があった.
結論として, 薬草医薬は決して副作用のない薬品ではなく, ほぼ定常的に事故の報告がある.
この実態をさらに明らかにし, 適切な教育指導を行う必要がある.