・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.htm
・「多物質過敏症候群の症状と健康状態」
低濃度の環境化学物質によって過敏反応が引き起こされ,この感作性物質とは関連性のない他の化学物質によっても過敏反応を起こすような状態を,多物質過敏(multiple chemical sensitivi-ties, MCS) 症候群という.
MCS の反応は慢性反復性で,症状は多数の器官系におよぶ.また,感作性物質の除去により症状は軽減する.
現在のところ,その病態生理・原因は不明である.
今回,MCS 症候群の人々と対照となる人々に電話によるインタビューを行い,心理的および身体的健康状態や病歴等を調査し比較した.
30~60歳までの MCS 症候群の人を選び,引き金となった環境化学物質(工業有機溶媒 20例,有機リン系殺虫剤 20例,シックハウス症候群 10例,二酸化塩素 10例)によって4群に分けた.また薬物による治療を受けていないことを条件とした.
対照群 (60例)は,電話帳から無作為に選び,年齢,性別, 社会的地位を MCS 群と一致させた.
MCS 4群の間には,化学物質に対する感受性(症状の数やタイプ,反応が起こる頻度),一般健康状態および病歴に差はなかったが,対照群との間には差が認められた.本人あるいは家族の精神病歴などの精神医学上の変化に関して,MCS 4群と対照群の間に差は認められなかった.
今回の調査では,Positive Affect/Negative Affect Scale (PANAS) を用い,被験者にこの数週間の気分を質問し,positive(積極的)か negative(消極的)かに分けスコア化した.MCS 4群では対照群と比較して negative affects score が高かった.
MCS は臨床生態学者(clinical ecologists) の創作した架空の病気ではないかという見方もある.
しかし,今回の調査で MCS 症候群の人々は臨床生態学者の治療を受けているいないにかかわらず,健康状態,病歴,化学物質に対する感受性や過敏反応の数などに違いは認められなかった.
このように MCS 症候群に共通した心理的異常所見が得られたことから,MCS は架空の病気ではないことが証明された.
今回の調査では,MCS 症候群の患者は,心や身体の健康状態に関して一般の健康な人々と明らかに異なっていた.