・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzen_news/13.html#6
第13号
・「(多種)化学物質過敏症は環境不耐症と言う方が良い」
(多種)化学物質過敏症 (Multiple Chemical Sensitivity; MCS) の概念は論争の的であり,それは1940年に Randolph がこれを言いだしたときから続いている.
化学物質が健康問題を起こし得ることを否定する者はまずあるまいが,MCS の考え方は明確でなく,懐疑派からすると実質がないものである.
論議はいまだに,MCS が単一のものか,いくつかの身体的または心理的病態の不適当な診断であるか,という辺りにある.
Randolph の主張は,化学物質に不適応の状態の人は過敏症となり,きわめて低い濃度の物質に対して不快反応が起こるというものである.
症状は多様で多器官を含み,各種の化学構造の異なる物質によって誘発される,という.
批判的な立場からは,MCS には何も診断基準がなく,診断はもっぱら自覚症状に基づいており,そのように決定された(心身症に属するものが多い)診断は受入れ難いとされる.
大衆の中にこの考えを信じるものが増えてきた.
多数の臨床生態学者 (clinical ecologists)と非専門家たちは Randolph の考えを熱心に信じており,彼らの考えに賛成しない者を計画的に大挙して襲撃するまでに至っている.
ある場合には,論争は政治的なものとなり,スウェーデンでは攻撃的なロビー活動が進められていると報じられている.
この問題に関するワークショップがベルリンで1996年2月に開かれた.これは,WHO の国際化学物質安全計画 (IPCS) の主催で,問題の全体を考慮できるように計画され,会議の記録は WHO から出版されている.
MCS の難問は診断基準から始まる.症状には,頭痛,動悸,疲労,眩暈,嘔気,記憶喪失,脱力感,筋肉痛,腹痛,息切れ,等があり,他に皮膚などのどの器官が侵されることもあり得る.
喘息などの一群を除けば,客観的な症状は稀である.1987年に,Cullen はこの病気はある化学物質によってある時発病し,以後多数の物質によって誘発されるようになる,とした.
しかし,Li の試験で MCS 患者に物質の名前を示さないで曝露したとき 20 例のうち1例も症状を現さなかった.
試験では,患者が過敏症であると信じている物質,フォルムアルデヒド,天然ガス,洗剤,灯油燃焼ガス,トリクロロエタン,フロン,変性アルコール,印刷インキ,油性ペイント,殺虫剤が用いられた.試験は「環境調節室」の中で,目隠し方式で行われた.
客観的な所見が欠如しているが,免疫学的な検査および他の検査成績も検討されている.会議に参加した医師たちは,これは独立した疾病ではなく,いくつもの別な説明が必要であろうとの推定が一般的であった.
慢性疲労症候群や湾岸戦争後遺症との比較検討が行われた.
それらは,MCS よりは客観的な所見と曝露の病歴があるが,判断はきわめて難しく,注意深い検討が強調されるにとどまった.
ワークショップの結論は,満場一致ではないが,MCS は臨床的に明確な疾病とは認められず,名前も誤解を招くので変えるべきだ,とされた.
「(多種)化学物質過敏症」の代わりに,Gothe は「環境心身症 」を提唱したが,会議では「特発性環境不耐症(IEI)」を採用した.今後,臨床生態学者たちがこれに同意するかどうかが待たれている.
環境汚染が健康障害を起こす危険があること,は会合した医師たちは認めているし,その問題に医学が十分に答えられないということも感じている.
争いの問題点は,支持する科学的な根拠もないのに病名を付け,治療や運動の拠り所とすることなのである.
runより:結局MCSに留まった訳ですが、化学物質過敏症と言ってもまず理解してもらえません。
シックハウス症候群は知っていても化学物質過敏症は知らないという人も多いのです。