・多種化学物質過敏症ないし化学物質不耐症は,これまでシックハウス症候群とか,化学物質過敏症などと呼ばれてきたものであり,現時点においてその被害規模の広がりを正確に掌握することは困難であるが,北里研究所病院を始めとして,上記症状の多数の患者が治療を受けていることは公知の事実であり,その被害の広がりが相当な範囲にわたるものであることは明らかである。被申請人は,全国規模で事業を展開していることから,潜在的被害者を含め,多種化学物質過敏症ないし化学物質不耐症による被害は,相当範囲に広がっているものと思われる。したがって,本件の申請人の健康被害は,相当範囲性の要件を満たすものであって,本件裁定申請は,適法である。
2) 因果関係の存否
(申請人の主張)
ア申請人は,前記第2の1の1)のとおり,平成16年4月25日,被申請人奈良店において,本件集成材を購入した。
イ申請人は,自宅2階の自室において,本件集成材を組み立てて机として使用を開始した。
ウ申請人は,平成16年5月1日,蕁麻疹と思われる症状が現れたため,通院したが,症状は改善されず,平成16年11月下旬ころ,皮膚が割れて裂けたり,体液が滲み出たりして,皮膚が赤く腫れ上がり,激しく痛むようになった。
また,申請人には,倦怠感,疲れやすさ,苛立ち,眠気,不眠,目の疲れ,目の痛み,嗅覚異常,鼻腔内の刺激感などの多岐にわたる症状が発出するようになり,シックハウス症候群該当性が疑われた。
エ申請人は,平成16年12月5日,上記シックハウス症候群の原因と疑われた本件集成材で組み立てた机を撤去したところ,1週間程度で症状が改善された。
オ申請人は,平成16年12月26日,本件集成材の一部を被申請人奈良店の店長に提供し,同店を通じて,検体の測定が行われたところ,本件集成材から検出されたホルムアルデヒドの濃度は,17.0μg/㎡-hrであった。
カ申請人は,被申請人から,ホルムアルデヒド,アセトアルデヒドなどの揮発性有機化合物が申請人の自宅から出ていないかの確認のため検査をしたいとの申出を受けたので,これに協力し,平成17年1月29日,自宅(1階居間,2階申請人自室)において,測定を実施したところ,同所から検出されたホルムアルデヒドの濃度は,1階居間で41.0μg/㎥,2階申請人自室で40.0μg/㎥であった。
キ以上の事実からすると,申請人は,本件集成材に含まれていた単一又は多種類の高濃度の化学物質に暴露され,耐性を喪失し,その後の低濃度暴露により多臓器にわたって多種化学物質過敏症ないし化学物質不耐症の症状が発現したものと考えられる。
なお,申請人の病態を化学物質過敏症と呼ぶことは,本人の素因が原因であるとの誤解を生むおそれがあること等から適当ではない。
クよって,申請人は,第1の1記載のとおりの裁定を求める。
(被申請人の主張)