大和郡山市における化学物質による健康被害原因裁定申請事件4 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・2 争点及び当事者の主張
1) 公害性(相当範囲性)の有無(被申請人の本案前の主張の当否)
(被申請人の主張)
公害紛争処理法(昭和45年法律第108号。以下「法」という。)における「公害」とは,環境基本法(平成5年法律第91号)2条3項所定の「公害」をいうとされ,同項において,「公害」とは,「環境の保全上の支障のうち,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁・・・,土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下・・・及び悪臭によって,人の健康又は生活環境・・・に係る被害が生ずることをいう。」とされる。

したがって,法に定める「公害」に該当するには,①事業活動その他の人の活動に伴って生ずるものであること,②相当範囲にわたるものであること,③大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下及び悪臭のいずれかに該当すること,④人の健康又は生活環境に係る被害が生じたことの4要件が必要である。
上記4要件のうち,②の要件が必要とされるのは,公害問題を社会問題として取り上げるゆえんが,単なる相隣関係的な問題にとどまらず,ある程度の地域的な広がりを示して大気の汚染や水質の汚濁などの現象が見られ,その被害も広範囲にまたがることを要するという点にある。
本件事案で申請人の主張する「汚染」は,申請人の自宅の一室内の汚染問題でしかなく,関係当事者は,申請人と被申請人のみであって,地域的な広がりが全く見られず,相隣関係にもならないものである。
そもそも,シックハウス症候群は,明確な医学的定義はないものの,「居住者の健康を維持するという観点から問題のある住宅において見られる健康被害の総称」を意味するものであり,その発症範囲が問題のある建物に限定されていることからすると,地域的広がりなど全く観念し得ないものである。
したがって,本件事案は,上記②の「相当範囲にわたるものであること」という要件を欠くことは明らかである。
よって,前述のとおり,本件事案は,法の定める「公害」に該当しないものであって,法42条の27第1項の「公害に係る被害」についての紛争には該当しないから,申請人の本件裁定申請は,その適法要件を満たさないものとして,却下されるべきである。(申請人の主張)争う。


被申請人は,本件事案の健康被害が「公害」の要件の一つである「相当範囲にわたるものであること」を欠くと主張するのであるが,これは,公害対策基本法(昭和42年法律第132号)が制定された当時の,工場のような特定の発生源から汚染が発生する典型7公害(いわゆるポイント汚染)を念頭においた主張であって,多種化学物質過敏症ないし化学物質不耐症のような現代型の化学物質による公害被害(いわゆるノンポイント汚染)には妥当しないというべきである。

すなわち,現代のような大量生産,大量消費,大量廃棄の時代には,生産や廃棄の段階における汚染(典型7公害のようなポイント汚染)だけでなく,市場に流通する製品が,消費段階で引き起こす被害も,これが広範囲に同一の原因物質により生じる可能性がある限り,被害の相当範囲性のある「公害」(消費段階のノンポイント汚染による公害)と捉えなければならない。
また,法が「相当範囲にわたる」ことを「公害」の要件としたのは,人的・地域的広がりのある被害を「公害」として取り扱おうとしたものであり,この要件をあまりに厳しく解すると,公害紛争を簡易・迅速に処理するという法の趣旨を減殺することになりかねず,「行政型裁判外における紛争解決手続(ADR)」の担い手として公害等調整委員会に期待されている役割を損ねることにもなるから,現代型公害については,これに即した解釈がなされるべきである。